佐野理事長ブログ カーブ

Close

第174回 忙酔敬語 エゴグラム

「最近イライラしてどうしようもないんです」
四十代になったばかりの女性が更年期障害の治療を希望して受診しました。生理は順調でホットフラッシュもないのでホルモン補充療法の適応ではなさそうです。
「何かツライことはありませんでしたか?」
いわゆる不定愁訴と言われる症状の背景には必ずといってほどワケがあります。夫との関係性、子供の問題、親の介護、職場でのパワハラなど・・・。こんなテーマで今年の2月、北海道心身医学会で発表しました。わりと好評でした(と思います)。
さて、この患者さんには思い当たるふしはなさそうでした。ご主人にも不満はなく、お子さんたちも元気に育っているようです。
「はて、どうしたもんだろうか」とカルテをめくっていると、16年前に行った心理テストが目に入りました。当時、夫立ち会い分娩を希望される妊婦さんは、郷久理事長の方針で全員、夫婦ともにYG性格検査と交流分析のエゴグラム検査を行っていました。YGは不安や「うつ」とその表現の仕方を調べる検査で、エゴグラムは他人との関わり方を調べる検査です。検査の結果はごく簡単にまるで暗号のように書かれていましたが、チラッと見ただけで分かります。この患者さんの場合、YGは問題ありませんでしたが、エゴグラムで生きづらい人生を歩むタイプと分かりました。
「ひょっとしてイライラするのは今に始まったことではありませんね。ご両親に何か恨みなどありませんでしたか?」
「どうして分かるんですか! 父と母は私が子供の頃離婚して、私は母に捨てられたと思っていました」
ほんの記号のような検査結果でここまで問題が暴かれるとは私もビックリでした。今の段階でこれ以上突っ込んでも傷口を広げるようなものなので、とりあえず気持ちを落ち着ける漢方とねぎらいの言葉をかけて、一回目の治療は終了しました。
エゴグラムとは交流分析という心理療法の中の検査の一つです。心の中の5つの自我をグラフに現して分析します。左から批判的な親(CP)、養育的な親(NP),大人(A)、自由な子ども(FC)、順応した子ども(AC)といった具合に、それらの点数の結果を棒グラフにします。CPは他人に対して厳格です。取っつきづらい性格ですがCPが足りないとルールに対していい加減になり締まりがなくなります。NPは思いやりの自我ですが多すぎると自分自身が燃えつきてしまいます。Aは状況を客観的に判断しますが、こればかりだとコンピューター人間になってしまいます。FCは本能的な自我で自由奔放です。ACは自分を守るために人の顔色を気にする部分です。CP、NP、A、FC、ACとも誰にも備わっているものでバランスが大切です。CPとACが極端に高いと他人に厳しく自分も自由になれないという苦しい人生を送ってしまいます。
患者さんはCPが高く人の欠点が気になるタイプでした。ご主人はYG検査、エゴグラムとも安定した性格を示し、おかげで無事に人生を送ってこれたようです。エゴグラムはそう簡単には修正できませんが、A(大人)を働かせて自分を知ることで調整可能です。
「これからは人の良い部分にも目を向けてくださいね。生きやすくなれますよ」
患者さんはニッコリ笑ってくれました。