院長ブログ カーブ

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第17回 忙酔敬語 妊娠中の性生活

最近、「細菌性腟症」という病名が産婦人科領域で定着してきました。はっきりとした炎症ではないので痒みなどの自覚症状はほとんどありません。しいていえば性交渉の後に魚くさい不快なおりものを呈することがあるくらいです。腟内には健常では乳酸菌が多く棲んでいて、雑菌が入らないようになっています。その細菌のバランスがくずれた状態が「細菌性腟症」です。妊婦さんの20%がすでに「細菌性腟症」になっているといわれていますが、そのうち3分の1は胎盤から出るホルモンの影響などで自然に治ります。しかし、治らないと流産や早産の原因になることがあるため、「細菌性腟症」の妊婦さんは早期の段階で治療を受けるように奨励されています。
以前は妊娠中の性生活は、深く激しい行為でなければ問題ないとされていました。しかし、「細菌性腟症」が認識されるようななってからは、できるだけ控えること、するとすれば雑菌が入らないようにご主人にはコンドームを装着してもらうように指導しています。精液自体にもプロスタグランディンといって子宮を収縮させる物質が含まれているため、2重の意味でコンドームが必要なのです。
性のいとなみは、もともとは子孫を残すことにあります。したがって妊娠中の性生活は生物学的にはまったく無意味で、実際、「本当はあんまりしたくありません」と言う妊婦さんがほとんどです。しかし男性はそういうわけにはいかず、とくに肉食系のご主人に「我慢しろ」というのは酷かもしれません。妊婦さんの中にもご主人との愛を確認したいため、ときどき膚を合わせないと不安になる人もいます。
昔から一般の人々も妊娠中の性生活は控えるようにと考えていたようです。私が中学生のとき、母が購読していた「主婦の友」の性の特集で、妊娠のため夫を満足させるためオーラルセックスをしたという体験談を読んだことがありました。逆に男性が妊娠した女性にオーラルセックスをする場合もあります。大学病院に在籍していたとき、臨床抄読会で「妊婦の腟内に息を吹き込んだため血中に空気が入り肺塞栓を起こして死亡した」という外国文献を発表しようとしたところ、先輩の先生に「橋本教授は下ネタを嫌われるのでやめた方がよい」と注意されました。しかし、2,3年後、三重大学(と記憶していますが)から産婦人科の臨床のマニュアル本が出版され、その中に私が読んだ文献が記載されているのを見つけました。とにかく妊婦さんには息を吹き込まないでください。
性生活は必ずしも「性交」をするという意味ではありません。「失楽園」などで有名な恋愛小説の大家の渡辺淳一先生も「年を老いて性器の挿入ができなくてもいいのです。愛を込めて膚を合わせるのもりっぱな性交渉です」と言っています。産後の性生活にもつながる言葉だと思います。