院長ブログ カーブ

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第169回 忙酔敬語 続・例外について

「多分ダメでしょう」の思い出を語ります。
妊娠22週で破水した妊婦さんがいました。
妊娠22週未満で生まれた場合、赤ちゃんは助からないので流産と言います。流産と早産の違いは赤ちゃんが助かるか助からないかの違いなので、医療レベルの上昇とともに時代によって妊娠週数は早くなって来ました。私が医師になる前は妊娠28週が境目、医師になったときは妊娠24週にレベルアップしていました。そして妊娠23週で生まれても助かる赤ちゃんが報告されてからは、妊娠22週でも助かるかもしれないと妊娠22週まで引き下げられました。しかし、よほどついていない限り(そもそも妊娠22週でのお産がついているとは言えませんが)助かることはありません。
実際、妊娠24週にならないと治療は難しいので、妊娠22週で破水した妊婦さんを引き受けてくれる病院は札幌ではありません。とりあえず当院に入院してもらって、早産予防と感染予防の点滴をしました。いずれ陣痛が来るだろうと予想していましたが、陣痛もなければ感染の兆候もありません。しかし、このままダラダラ治療していてはご本人も大変だし、赤ちゃんに障害が生じても困るので治療を打ち切りました。ところが妊娠24週になっても、時々羊水が流れる以外は、早産の兆候はなく赤ちゃんもすこぶる元気でした。さすがにここまでもてば大学病院が引き受けてくれました。
驚いたことに大学病院に搬送された後も経過は順調で、何と2か月以上ももって妊娠9か月で帝王切開でお産となりました。ただし、こんなことは例外中の例外で、めったにあるものではありません。「多分ダメでしょう」の「多分」がラッキーな方向へつながりました。このお母さんは、その後も妊娠して当院を受診しましたが、また何かあったら大変なので、今回は始めから大学病院でフォローしてもらうことにしました。
どうしてこんな絶望的な状況から元気な赤ちゃんが生まれたのでしょう? 「例外」ではすまされない科学的な要因があったはずです。
医学の研究は基本的に病気の原因や治療についての解明です。食事が適切でないとメタボになる、喫煙と癌など。これらの研究は説得力がありほとんどの人が納得ですよね。しかし、私は「本当にただそれだけかな?」と簡単には納得できません。どんなに不摂生な生活をしていても病気にならない人がいます。そうした「例外」的な人たちを対象として研究することで疾患を防ぐ新たな発見があるのではないでしょうか。
喫煙はほとんどの癌に関係していますが、不思議なことに統計的には子宮体癌にはなりにくいそうです。では、その予防にとスパスパ吸えば、体癌になる前に別の病気で命を落とす可能性があります。子宮体癌は高齢者に多いのでそんな結果が出たのかもしれません。
治療薬の効果についても「例外」があります。
札幌医大の産婦人科心身症外来でのこと。不安を訴える患者さんに抗不安薬のセルシンを処方したところ、ますます不安が強くなりました。製薬会社に問い合わせると、まれにパラドキシカル(逆説的)反応が発生するとのことでした。さいわい、師匠の郷久先生にタッチしてドグマチールを処方してもらったらすぐに元気になりました。
しかし、この「例外」、今思うと向精神薬によるアカシジアという副反応だったかもしれません。当時、アカシジアという言葉はまだ定着していませんでした。