院長ブログ カーブ

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第162回 忙酔敬語 患者さんへの目線

このタイトルだと「患者さんの立場から見た目線」とか何とか医師・患者間の問題と思われるでしょうが、今回はズバリ医師が患者さんのどこに視線を向けるべきかということについて述べます。普段の会話でも役立つと思いますので参考にしてください。
まずは日本大学芸術部教授でパフォーマンス心理学がご専門の佐藤綾子先生の解説を紹介します。先生は患者さんと医師の信頼関係を築く上でアイコンタクトの重要性を強調されています。以下、『医療パフォーマンス学講座─第5回─』の抜粋です。

患者とのアイコンタクトは、長さ、強さ、方向の3要素で決まる。

①目と目を合わせる時間の長さ:1分当たり32秒が理想である。
②視線の強さ:強すぎず弱すぎず、まぶたを引き上げる筋肉の力を少し抜くと良い。
③視線の方向:両目と鼻筋の2分の1あたりの点を結んだ逆三角形に向ける。

私は患者さんを見るとき、目の奥までマジマジとのぞき込むクセがあり、患者さんをドギマギさせてしまうことがあります。「青いコンタクトですね」などと冗談ですむこともありますが、③の方法だとこわがらせなくてもすみそうです。
最近、電子カルテの普及とともに、患者さんの顔をろくに見もしない医師の態度が取りざたされていますが、しっかり見る先生もいます。母を市内の病院の内科に連れて行ったところ、担当の先生は電子カルテはお手のもので、画面やボードを見るよりも母の様子を見る時間の方が長かったと思います。ボードは母の様子を見ながら打っていて、まさに1分当たり32秒でした。我が一本指打法とはえらく違うもんだと感服しました。
話は突然変わりますが、宮本武蔵は敵と対戦するとき、相手の目力に圧倒されないように目は直接見ず、眉間を見つめたそうです。③の逆のパターンですね。相手の目よりもやや上を見た方が相手に対して威圧感が増します。こんな目で見られたらイヤですよね。ケンカするときには威力を発揮するかもしれませんが、間違っても患者さんにこんな視線を向けてはなりません。
産婦人科領域の心身医学のパイオニアの一人である長谷川直義先生は、産婦人科医というよりも精神分析医といったほうがふさわしい方でした。長谷川先生と同時代に東北大学に在籍していた先生たちは、私に「アイツはお産で出血が多くなると逃げて行った」と教えてくれたものでした。長谷川先生には多くの著書がありますが、その中の一冊が『臨床医のための面接法』。「産婦人科医のため」ではなく「臨床医のため」です。このタイトルのつけ方からしても長谷川先生がただの産婦人科医でないことが分かります。私が購入したのは30年以上も前のことで、どこにやったのか手元にないのでうろ覚えですが、初診の患者さんの応対について述べていました。
─ 診察室に患者を呼び入れるときはカルテに目を落としておく。そして目を合わさずに椅子をすすめて、患者が座ってからおもむろに温かく目を向ける。・・・ ─
不勉強な私はここまで読んで「めんどくせいなあ」と挫折してしまいました。それが今になって、ようやくその重要性に気づいたのでした。