院長ブログ カーブ

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第159回 忙酔敬語 物忘れ 

Y先生から「都合がつかないので代わりに東洋医学専門医制度委員会のウェブ会議に出席してくれないだろうか」というメールが来ました。東京で行われる会議にネットで参加するのです。ネットでは音声が聞き取れなかったりして、やり取りに不満はあるものの旅費も時間も節約できてそれなりの意義はあります。予定表を見ても時間はあいているので2つ返事でOKとメールしました。ところがその日は私がかかわっている学術講演会があり、去年から決まっていました。協賛する製薬会社の営業マンが確認の訪問をしてくれたおかげで日をたたずに知ることとなり、あわてて「ダメでした。ご免なさい」とメールしました。私としてはちょっと珍しいケースです。別にど忘れはしないというワケではありませんよ。予定表に記録するのを忘れていたのです。
誰でも五十を過ぎるあたりから物忘れは多くなります。「絶対忘れないぞ!」と気合いを入れてもダメ。私もスタッフの名前すら時々忘れて旧姓で呼ぶことがあります。不思議なことに旧姓は覚えているんですね。全部忘れたらヒンシュクをかいますが旧姓なら笑って(苦笑いですが)許してくれます。
失敗しないコツは必ず自分は忘れるという前提で行動することです。当院の医局には3ヵ月分の予定のホワイトボードがあります。そこにマメに書くことが第一。第二に手帳にも記録すること。手帳はその年すべての予定が書けるので医局の予定表と意味合いが微妙に違います。Y先生の依頼に関するトラブルは、ボードにも手帳にも書き忘れたのが原因でした。この数日間に絶対しなければイケナイことは胸ポケットにメモを入れます。その日のことはメガネケースに入れます。勤務が終えたら老眼鏡をかけ替えるので絶対に忘れることはありません。こうなると小川洋子さんの名作『博士の愛した数式』ですね。
こうしたコツは私が学生のときから行っていました。ただしその時分の私は大丈夫でしたよ。母に対してです。その頃の母は五十前でしたが買い物で頼んだことの八割は忘れました。怒っても仕方がないので母の財布にメモを入れることにしました。それでもメモを読むのを忘れるので、とうとうお札をメモでくるみました。さすがにそれ以降は買い物で忘れることはなくなりました。我ながら良いセンスをしていたものです。
物忘れと認知症とは違います。認知症の詳しいことは専門ではないので軽く振れることにします。物忘れは病気ではありませんが認知症は病気です。違いは歴然です。何となく忘れっぽくなったなといったレベルでなく、10分前の出来事がポッカリ抜けてたりして唖然とするほどです。初期では治療法もあるので認知症や物忘れ外来を標榜している病院をおすすめします。
出来上がった認知症の親族の介護は大変です。半年ぶりで受診した更年期の患者さんがこのところ疲れてどうしようもないと言うので、例のごとく「何かありましたか?」と訊くと、認知症のお母様の介護でまいっているとのこと。
「いいですか、『お母さん、さっき言ったでしょ!』は禁句ですからね」
「実は、そればっかりくり返しています」と苦笑い。
私の母も本格的な認知症で施設に入所しています。時々顔を出すと、5,6分毎に同じ質問をしてきます。はじめはイラッと来ましたが、もう、仕方がないので同じ事をくり返して答えています。割りきってしまうと気分はラクです。参考になると良いのですが・・・。