佐野理事長ブログ カーブ

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第154回 忙酔敬語 そんなに急いでどうするの?

北海道は来年開通される新幹線の話題で浮かれています。本当は青森から函館(新函館北斗)までの延長にすぎないのですが、なかには「なあんだ、札幌じゃないんだ」と勘違いしていた人もいました。恥ずかしながら実は私もその一人。
北海道新幹線の計画はバブルの時代から推し進められていて、実際に線路を支える高架橋も建設されていました。当時、有力だった政治家の影響で室蘭回りではなく小樽回りでした。あちこちポツンポツンと断続的に建った高架橋を見て、「一体、いつ出来るんだろう」といぶかしく思ったものです。そしてバブル崩壊後、計画は頓挫して、せっかく出来た高架橋もいつのまにか姿を消してしまいました。まさに金をどぶに捨てた感でした。不思議なことにマスコミをはじめ、このことについて詮議されることはありませんでした。
院長の仕事は診療だけではなく、職員を食わせるという責任もあります。実際におこなっていることがペイしているかどうかを判断しなければなりません。ただし心理面接のように保険診療ではペイできなくても、マクロ的に見れば医療の質の向上につながり結局は黒字になる部門もあります。その辺のところを見極めるのが経営者の腕です。
偉そうなことを言っていますが、私は経済に関してはまるでダメ。今でも学生時代に経済学の試験を受ける夢を見てうなされることがあります。すべての問題がチンプンカンプンで「これでは進学できない」と焦ります。しかし、夢の途中で「待てよ、オレは医者だよな。ということはこれは夢か?」と気づき、目を覚まします。
話がそれました。経済学はダメでも、当院に来る前にも色々な病院に勤務していたことがあるので、「この病院は赤字だな」というのはカラダで分かります。当たり前ですが、忙しければ黒字、ヒマなら赤字です。おかげさまで当院は多忙ですので黒字です。
そんなワケで、他の事業でも黒字か赤字かピンと来ます。学会で広島に行ったとき、りっぱなモノレールに乗りましたが、寒散としていて「これは赤字だな」と分かりました。
JR北海道はただでさえ赤字です。こんな所に大食らいの新幹線が入ってきたら大変なことになるのは明白です。いくら経済効果だなんて言っても焼け石に水。バブルのころでさえ「本当に大丈夫?」と危惧していたのに危ういかぎりです。
リニア新幹線についても一言。東京大坂間の所要時間は現在の新幹線で3時間。リニア新幹線だと1時間で2時間短縮されるそうですが、その2時間ってそんなに重要なのでしょうか? 病院の待合室では2時間待ちはしばしばです。「こらっ、そんな事とくらべるな!」と言われるかもしれませんが、たったの2時間ですよ。その2時間のために失われる物が多すぎます。搭乗してもトンネルばかりだそうです。
私はJR学園都市線が好きです。本来は札沼線といって札幌から沼田まで路線は延びていたのですが、過疎化のため現在は新十津川が終点です。ノンビリとした田園風景がすばらしい。これを楽しむために用もないのに2回乗車したほどです。夏だと開いた窓から沿線から延びた木の枝がピョコンと入り込んで来ます。このように学園都市線ではマッタリとした時間を楽しむことが出来ます。
新幹線やリニア新幹線に「マッタリとした時間」を期待するなんてもともと見当違いなのは重々承知のこと。しかし、たかだか数時間のためにどれだけの犠牲が生じるのか、立ち止まって考えるべきだと思います。