院長ブログ カーブ

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第142回 忙酔敬語 分娩予定日

人の分娩予定日なんて誰が決めたのでしょう。いろいろ調べてみましたが分かりません。国際会議で決めたのは確かなようで全世界共通です。
日本人の習癖として、われわれ産科医はこの分娩予定日にこだわり、予定日を過ぎると何とかしなければと落ち着かなくなります。アメリカ人はノンビリしたもので産科医は予定日を過ぎても泰然自若としています。妊婦さんも同様にノンビリさんで妊娠して産婦人科を受診するのは妊娠5か月くらいが多いそうです。おそらくアメリカでは帝王切開を決めてから10分で赤ちゃんを出せる施設が多いという背景もあるからだと思います。
日本だとほとんどの妊婦さんは生理が少しでも遅れると受診します。4か月を過ぎるケースは生むかどうか迷ったあげくの場合が多いようです。分娩予定日は、昔は最終月経から計算したものですが、最近では超音波で赤ちゃんの大きさを計測して修正します。妊娠8週から妊娠10週だと3日以内の誤差で予定日を決めることが出来ます。したがって日本人の分娩予定日の正確さは世界のトップレベルにあると言えます。
そのあげく、産科医も妊婦さんも予定日までに生まれないと「どうしよう」ということになります。いちおう妊娠37週から42週未満が正期産なので、日本では42週を目安にお産に持っていくのが一般的で、当院も基本的にその方針に従っています。
予定日を過ぎると何が悪いのかというと、母体に負担がかかることと胎盤の機能が衰えて赤ちゃんの状態が悪くなることです。母体の状態が良いか悪いか誰にでも分かるのでこれは問題ありませんね。産科医と妊婦さんが心配するのは赤ちゃんの状態です。
赤ちゃんの状態は、分娩監視装置で赤ちゃんの心拍を連続モニターすることで分かります。それとお母さんの胎動の自覚も参考になります。30年も前、東大が1週間に1度のモニターよりもお母さんの胎動の自覚の方が信頼できると発表して以来、お母さんに胎動の記録手帳を配布する病院が出てきました。しかし、お母さんが神経質になってノイローゼになり、マイナスの面が多いのでやめた施設もあります。
妊娠38週に赤ちゃんが生まれても何も問題がないのは周知のとおりです。そこで妊娠38週に入ると誘発分娩を試みた施設がけっこうありました。ある施設長いわく「妊娠38週では40週と比べて羊水が混濁することが少ない」。
帝王切開大国のブラジルでは、羊水鏡といって子宮口から子宮の中の羊水を観察する器具を用いて、羊水が濁っていれば即、帝王切開するそうです。その結果、分娩の40%が帝王切開という結果になりました。まあ、これは都市部に住んでいるハイソサイアティーの人たちのようです。
羊水が濁るというのは、子宮の中で赤ちゃんが苦しくなり肛門がゆるんで胎便をするということです。しかし、臍の緒が圧迫されて一時的に苦しくなっただけで、その後は回復するケースがほとんどです。
分娩誘発は人工的に陣痛を起こすので赤ちゃんに負担をかけることがあります。分娩予定日を過ぎてからの分娩誘発は帝王切開になるケースが多いのですが、予定日を過ぎたからだけではなく、誘発そのものが原因となることもあります。当院の小児科の笹島先生はよく「赤ちゃんには赤ちゃんの生まれたい時期があるのに」と言っています。私はこの言葉を大切にして、お母さんも赤ちゃんも納得できるお産をしてほしいと思っています。