佐野理事長ブログ カーブ

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第136回 忙酔敬語  漢方薬の効能と効果、そして生薬

四十代後半の女性が更年期障害と思って受診。1ヵ月以上も発汗と動悸が続いていて、漢方が好きなので漢方薬の処方を希望していました。
「今、何か漢方を飲んでいますか?」
「肩こりがあるので3か月前から葛根湯を飲んでいます」
「そんなに! それで少しは良くなりましたか?」
「あまり変わりませんが、もうちょっと頑張って続けようと思ってます」
「その汗と動悸、多分、葛根湯のせいですよ。それに漢方と言えども2,3日飲んで効果がなければやめた方がいいですよ」
「えっ? 漢方にも副作用があるんですか?」
「葛根湯の中には麻黄という生薬が入っていて、体を温めたり頭痛を和らげたりします。しかし汗を出したり動悸の原因にもなるんですよ」
葛根湯を処方する際のポイントは、後頸部が凝って悪寒がして汗が出ないことです。汗が出て寒気が取れたらなあという場合が使い時です。この辺のところを押さえておけば様々な病気に威力を発揮します。ツムラの場合、効能・効果として(製薬会社によって若干の違いがあります)、感冒、鼻かぜ、熱性疾患の初期、炎症性疾患(結膜炎、角膜炎、中耳炎、扁桃腺炎、乳腺炎、リンパ腺炎)、肩こり、上半身の神経痛、じんましん、とあり、まるで万能薬です。
前医も「肩こり」という効能にひかれて処方したのでしょう。患者さんも効能を説明されて納得したのだと思います。東洋医学を多少ともかじっている医師は、こうした処方のやりかたを、口をひん曲げて「病名漢方」と言っています。
逆に「葛根湯が効いた」というのが治療のヒントになることもあります。当院の助産師Wさん。右膝が腫れて痛くなったので整形外科を受診しました。MRIなどの検査では異常はなく、診断名は膝関節炎。鎮痛薬を飲むしかないと言われたそうです。そこで鍼灸治療院にも通いましたが1か月しても良くなりません。しかたなく私に相談しました。私は、彼女の膝をろくに見もしないで、「葛根湯が少し効いたんですよねえ」と笑いながら言ったWさんの言葉に反応しました。関節炎に効く漢方薬は色々あります。その中で、薏苡仁湯という漢方薬を構成する生薬の半分以上が葛根湯と共通しています。そこで薏苡仁湯を処方したところ3日間で膝の腫れはなくなり痛みも半減しました。
東洋医学をきちんと勉強した医師は、ふつう、舌を見たり(舌診)、脈をとったり(脈診)、お腹を触ったり(腹診)して漢方を決めます。今回、そこのところを素っ飛ばして、生薬の配合から決めたわけです。これも面白い方法だなあと思い、秋の東洋医学会北海道支部の学術講演会に応募しました。
ところで、その生薬ですが、野菜と同じく栽培物なので、出来不出来があり、どれでも良いというわけにはいきません。朝鮮人参を例にとってもピンキリです。赤ひげ大賞を受賞した下田先生から、「韓国の街角で売られている人参はほとんどクズ人参だよ。上物は日本に入って来る」と伺ったことがありました。2年前にソウルに行ったとき納得しました。免税店に入ってみると「正官床コウジン末(上物の人参です)」がうやうやしく売られていたからです。さいわい、日本では保険が利くので手頃な価格で処方できます。