院長ブログ カーブ

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第132回 忙酔敬語 乗客の中に日本人は・・・

近ごろ国際線の墜落事故が多発していますが、その報道で気になるのが「乗客の中に日本人はいませんでした」という言葉。何だか「日本人さえ無事ならいいんじゃない」と言う意味にも取れて不快感を覚えます。もちろん、その国際線に乗った可能性のある方の関係者に配慮してのことでしょうが島国根性丸出しです。では何と言えば良いのかと問われてもちょっと困ります。意外に難しい問題ですね。
当院は札幌でも辺鄙なところにありますが、それでも東南アジア、ヨーロッパなど各国の患者さんが受診します。医療はサービス業でもあると考えている私は、そうした患者さんが不安にならないように出来るだけ配慮しています。また、外国のやり方から学ぶこともしばしばあります。
その筆頭が帝王切開時の夫立ち会いです。夫立ち会い分娩は当たり前に行ってきましたが、帝王切開となると医師など医療従事者しかOKしていませんでした。イギリス人のご主人が当然のように手術室に入ることを希望したのをきっかけに、日本人でもOKとしました。これは以前から予期していたことではありました。友人の札幌医大産婦人科の遠藤先生が、ヘルシンキ大学の視察報告をしたときに、帝王切開で麻酔科医と覚しき男性が産婦さんにしきりにキスをするのを見てビックリしたと言いました。後でその人はご主人と分かりホッとしたそうです。そんな予備知識があったので、イギリス人のご主人が手術室に入りたいと言ったときは、スンナリ受け入れることが出来ました。
モロッコ人のご主人と結婚して自らもイスラム教徒となった日本人の妊婦さんがいました。イスラム特有のスカーフをかぶっているので一目でムスリムと分かりました。イスラムは、豚肉をはじめとして食事などの戒律が厳しいのを承知していたので、入院食にはいっそのこと肉類は提供しないこと(豚肉以外の肉でも特別な儀式のもとで処理しなければなりません)、また、「肉を触った手で○○さんの食べ物に触れないように厨房のスタッフに言っておきますね」と念を押すと、イスラム教を理解していると喜んでくれました。
不幸なことに中東をはじめ、多くのイスラム教徒の人々がケンカをしていますが、もともとイスラム教は他の宗教にも寛容で、戦いを好むわけではありません。オマー・シャリフ主演の映画『イブラヒムおじさんとコーランの花たち』を見れば分かります。
ふと、「ムスリムだと生きるのがラクではありませんか?」と訊ねると、「そうです」とニッコリと微笑みました。医学の世界でも近ごろ「ガイドライン」なるものが出回っています。はじめは「いちいちうるさいな」と思っていましたが、それに従っていれば悩むことは少ないので、最近では便利なものだと考え直しました。『コーラン』を「ガイドライン」にたとえるのは不遜ではありますが、そんな気がしました。
学生のとき、マスターするまでにはいたりませんでしたが、NHKのラジオ講座で中国語を勉強したことがあるので、今でも挨拶くらいは話せます。「請坐(チンツォ)」(どうぞおかけ下さい)と言うと、皆さん、「謝謝(シェシェ)」と喜んでくれます。ただし患者さんから中国語で話しかけられてもサッパリ分からないので一方通行です。
よけいな事かもしれませんが、このように誠意を示せば世界中に通用すると思うのは危険です。10年以上も前、アメリカのハロウィンで「フリーズ!」と言われたのにとっさの判断が出来ず撃ち殺された日本の少年がいました。くれぐれも甘く見てはいけません。