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第13回 忙酔敬語 月経前症候群

「月経前症候群」は以前は「月経前緊張症」ともいわれていました。生理の1週間前から生理が始まる頃までに生じるさまざまな不快な症状をきたす病態です。症状は人によって違います。めまい、頭痛、吐き気、乳房の張り、食欲不振(過食になることもあります)、むくみ、イライラ、気分の落ち込みなどがあります。とくに精神状態が不安定な場合、精神科の立場から「月経前不快気分障害」と診断されることもあります。
めずらしい状態ではなく、成熟女性の10%が何らかの治療を必要としているという研究者もいます。実際、ある女子大の講義に行ったとき、「月経前症候群を自覚している人は手をあげてください」といったところ、約90人中、5,6人の学生が、おずおずと手をあげました。内気で手をあげられなかった学生もいる可能性もあるので、この数字は妥当だと思います。
大学病院にいたとき、女性の心身症関連の外国文献を読むと「月経前症候群」に関するものばかりで、「欧米の女性は何て意気地がないんだろう」と思ったものです。大学病院ではそのような患者さんは少なかったからです。しかし、開業してみると意外に「月経前症候群」で悩んでいる女性が多いことが分かりました。また、10年ほど前、札幌医師会の勉強会で「月経前症候群」について講演したとき、集まったお医者さんの9割以上が精神科の先生だったのには驚きました。精神科の女性の患者さんの多くは月経前になると精神状態が不安定になり、なかにはリストカットまでする人がいるとのことでした。
原因についてはまだ一定の見解はありませんが、私はその人自身の体力と女性ホルモンに対する感受性にあると考えています。同じ人でも体調や環境によって症状が重いときとそうでもないときがあります。「更年期障害」ではないかと心配する人がいますが、「更年期障害」では女性ホルモンの減少と関係がありますが、「月経前症候群」は逆に妊娠の準備のために女性ホルモンが増加するときに症状が現れます。では「月経前症候群」と「更年期障害」は関係ないかというと、そうでもないようです。オーストラリアの心理学の研究者たちは3000人の調査で、「月経前症候群」を経験した女性は「更年期障害」になりやすいという救われないような報告をしています。しかし、適度な運動をする人は両方とも少なくなり、スポーツの重要性を強調していました。やはり体力が大事なようです。
スポーツ以外の治療法としては、漢方薬があります。生理前になると妊娠の準備のための女性ホルモンが増加します。このホルモンは体に水分をため込む作用があるので、利水作用のある苓桂朮甘湯や当帰芍薬散などをその時期に飲むと、7割の患者さんが「ラクになった」といってくれました。その他、血の巡りを良くする漢方や、気分を安定させる漢方が効く場合もあります。「低用量ピル」も手堅い方法です。「低用量ピル」は卵巣から分泌されるホルモンを抑えるので、漢方が効かない女性にも効果があります。その他、SSRIなどの向精神薬をその期間だけ服用する方法もあります。
むかしから多くの女性が「月経前症候群」に悩まされてきましたが、最近は以上のようにさまざまな治療法が確立してきました。基本的にははつらつとした生活を送ればよいのですが、そうもいかない女性は婦人科や心療内科の先生と相談してください。人生が2倍も3倍もラクになりますよ。