院長ブログ カーブ

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第127回 忙酔敬語 アルコール使用障害

昨年、米国精神医学会の診断手引が改訂され、それにともない訳語も変更されました。アルコール依存症もその対象になり、アルコール使用障害という何だか間の抜けた診断名になりました。アルコール依存症も、もともとは慢性アルコール中毒、略してアル中と言われ長年にわたって日本人に馴染んできました。これで二度目の改名となったわけです。だんだんインパクトのない言葉になりましたが、日本精神神経学会なりに理由があるようです。そう言えば中国料理も、昔は支那料理、続いて中華料理となり、だんだん不味そうになったと筒井康隆さんが何かに書いておられました。
ただし昨年まで大酒飲みだった私個人については納得できる名称です。酒断ちしてから早1年近くにもなりますが体調の良さを実感しています。やはり不適切な使用だったんだなあ。いまだに学会の後の懇親会で、となりの先生に「まあ、お一つ」と勧められ、「私、ワケあって酒はやめました」と言うと、「えっ!あんなに飲んでたのに」と驚かれます。傍目から見ても尋常な飲み方ではなかったようです。スパッとやめられたので依存はしていなかったとは思いますが、今でも『刑事コロンボ』の再放送で、犯人がウィスキーのダブルをストレートで飲むシーンを見ると、ウィスキーの香りが漂ってきそうで無性に飲みたくなります。それに対して、ビールやハイボールのCMを見てもちっとも心は引かれません。下手くそなCMですがアルコールの社会に対する悪影響を考えるとこの程度でいいでしょう。あまりにもそそられるようなCMは危険です。
まだアル中の名称がまかり通っていた学生の頃、黒澤 明監督の『天国と地獄』を見たことがありました。その中で、警察内部での検討会で犯行に関係する人物の筆跡に関して鑑識官が説明するシーンがありました。「この書体の崩れ方はアル中患者の特徴であります」。そのクローズアップされた字を見て愕然としました。「オレの字とおんなじだ!」。アルコールをやめた今でも私の字は崩れたままで事務泣かせです。ゴメンネ・・・。
アルコールの効用として宴会の雰囲気を盛り上げ、個人的にも親交を深めると言われていますが、良く考えるとアヤシイかぎりです。シラフでみんなが騒いでいるのを見るとバカとしか思えません(そっせんしてさんざんバカやっておいて良く言えたものです、スイマセン)。若い頃は人前でしゃべるのが苦手で宴会ではアルコールは必需品でしたが、今では図々しくなり酒抜きでも楽しく語り合えます。
昔、郷久先生と心身医学の学会に参加した後、ホテルのバーで今後の研究について語り合ったことがありました。次から次とアイデアが浮かんで来て、お互いに「それはすばらしい!」と感嘆しきりでした。酔っぱらっているので、このアイデアを忘れてはならないとコースターにメモしておきました。翌朝、メモを読んであまりのクダラナサにガッカリしてしまいました。つくづく酔った勢いでの会話の空しさを実感したことでした。
先日、久しぶりに飲む機会がありました。大事なお客さんの接待で、昨年から札幌に来たときは一緒に飲むと約束していたからです。一口飲んだ日本酒、涙が出るほど美味かった! 行きつけとは言えなくなったスナックでのウィスキーのダブル、これも美味かった!! でも翌日はこの先生の特別講演を主なテーマとした勉強会なので2杯でやめときました。こんな飲み方ならたまには良いのかもしれませんが、歯止めがきかなくなる可能性があるのでやはり今回限りとしました。