院長ブログ カーブ

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第119回 忙酔敬語 鈴木孝夫『人にはどれだけの物が必要か』(新潮文庫)

この本は平成6年に飛鳥新書で刊行された後、平成11年に中央文庫で刊行され、さらに新潮文庫が今年の4月1日にあらたに刊行したものです。要するに20年前に書かれた作品です。しかし、エコロジーの問題を熱く説き、さらには原発の危険性も預言しており少しも古びていません。しかも読み物として実に面白い。新潮文庫、偉いぞ!!  題名は私の好きなトルストイの寓話『人にはどれだけの土地が必要か』からとっています。
鈴木先生は大正15年生まれ。慶応大学の医学部に入学した後、英文科に変更して言語社会学を専攻し、現在、同大名誉教授。失礼ですがはっきり言って奇人です。
地球を汚さないため、まず物は出来るだけ買わない、紙一枚でも捨てない。時計は50年前に買ったスイス製の自動巻、カバンは父から引き継いだ60年物。修理代にお金をかけてでも使っている。毎日の散歩のときには、目についた新聞紙を拾い集めて十㎏単位の束にまとめて問屋さんに運ぶ。1か月で300㎏から多いときで500㎏になる。その他に使えそうな掃除機などの電化製品を拾って修理して人にあげる。あまりにも掃除機が増えるため、奥様は「掃除機を吸い取る掃除機が欲しい」とまで言われるそうです。
では、ご家族はさぞかし迷惑しているかと思いきや、捨ててあったフランス製のショルダーバッグを修理してお孫さんの高校入学祝いに贈って喜ばれたり、これもまた拾ったブランド物の新品のスニーカーを消毒してその妹にプレゼントしたところ、「前から欲しかったがあまりにも高くて買えなかった」と喜ばれたりしている。極めつきは電池切れで動かなくなったために捨てられたイブ何とかというフランスの人気デザイナーの女物の腕時計。電池を入れ替えて使えるようにして先ほどの高校に入学したお孫さんのお祝いに追加しようとしたら、その母親(先生の娘さんか)が「こんな立派なものは高校生にはもったいない、私がもらいます」とすました顔で腕にはめてしまった。
こんなことにエネルギーを注いでいては本職の大学での研究に支障をきたすので、自分のやりたいこと以外はいっさいやらない。教え子の結婚式の出席はもちろん、仲人は頼まれてもしない。断らなくてもすむように日頃から「自分はそういうことはしない人間である」とアピールしている。マージャン、囲碁将棋、ゴルフや野球、宴会、競馬、赤提灯、縄のれん、お祭り、イベント等いっさい興味なし。いっぺん行きたいと思っていたキャバレーは、そのうちなくなってしまった。この辺の好み、オレと同じだなあ。私と違うのは喫煙で、おそらく紙を消費しないためでしょうね、パイプ煙草を愛用している。
ただし、必要と思ったら身銭をきる。慶応大学の校舎を改築する際、構内の樹齢何百年の大木が切り倒れそうになった。古木は地球の宝です。教授会で「費用は自分が出す」と主張して植えかえさせた。結局、500万円かかったが「全部出すと言った覚えはない」と50万だけ払った。理事は呆れて笑ったそうです。
エコのために頑張るモチベーションづけとして、「地球は自分のもの」と考えるようにしている。世界中の女性も全部自分のものだが、奥さんだけでせいいっぱいなので他の男性にまかせている。もちろんこれはジョークでしょうね。
私も、無駄なエネルギー資源を使うのは生理的に嫌悪を覚えるタチで、走っている車を止めるのはガソリンの浪費につながると考え、歩行者用の信号のボタンは出来るだけ押さないで、赤でも急いで渡っています。でも危険なので皆さんはマネしないでくださいね。