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第118回 忙酔敬語 池見酉次郎先生の遺言

私は診察室の机の上に次のような紙片を置いています。

池見酉次郎九大名誉教授の言葉(遺言)

1.全人的医療である東洋医学に学べ。
2.心身医学だけではダメ、心・身・社会・倫理学である。
3.カウンセリングのゴールは、生かされている自分に気づき、それに対して感謝の念を抱いてもらうことにある。
4.将来の人類を救うのは以上のことを会得した医師である。

池見先生は九大心療内科の初代教授で、日本の心身医学のパイオニアです。郷久理事長は若かりしころ、九大の心療内科に6ヵ月間国内留学しました。当時の九大の心療内科はまさに創世記で、現在、心身医学の指導者として活躍している先生たちと一緒に勉強したそうです。郷久先生はけっこう池見先生に気に入られたようで、その後、学会で会うたびに「お元気ですか」などと声をかけられていました。私もそのおこぼれで、池見先生と直接お会いする機会が何度もありました。当院の月曜日の外来を担当してくれている札幌医大の高橋円先生も、九大の心療内科で計6か月間、本格的に心身医学の勉強をしています。それにひきかえ、私は30年以上も前、福岡で心身医学の学会があった際、すでに退官されていた池見先生に紹介状を書いていただいて、半日、見学しただけです。それでも、直接、池見先生に接することができたのは宝だと思っています。

1.の東洋医学うんぬんについて。池見先生はとくに漢方などを使用してはいませんでしたが、東洋医学の心と体を別々としてとらえない「心身一如」の考えを心身医学の極意として評価していました。

2.について。いくら患者さんを全人的にあつかっても、セクハラ、パワハラなど社会的、倫理的な背景が間違っていれば、どうしようもありません。場合によっては、医療者が、家族や職場の人と接触する必要も生じてきます。

3.について。晩年の池見先生は、人々の心が荒廃してきたのを非常に憂いていました。何とかしなければと焦っていました。心身医学学会での一般口演に対しても、こまめに「池見ですけど・・・・」と手を挙げて質問やコメントをしておられました。そのコメントの一つが3.です。カウンセリングについては、ただ患者さんの訴えを受容するだけではダメだとされていましたが、これは仏教の悟りの境地です。この発言の後、会場はシーンと静まりかえりました。まさにドン引き。自分にも出来ないのに患者さんにここまで指導するなんてとても無理といった雰囲気でした。でも私はゾクッとするほど感動しました。

4.について。3.に引き続いて池見先生が述べた言葉。それまで私は患者さんを救うことは考えていましたが、「人類を救う」なんて大それたことは考えてもみませんでした。人類規模のことは政治家の仕事と思っていましたが、それではアブナイのですね。人類のことを本当に知りつくした医師が、声を大にして平和に貢献しなければならない時期に来ているのだと、最近になってようやく思い知るようになりました。