院長ブログ カーブ

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第115回 忙酔敬語 男と女

期待しないでくださいよ。恋愛のお話ではありませんから。日常診療で恋愛の結末をさんざん診ているので恋愛にはとんと興味がなく、恋愛小説も読みません。先日、テレビで映画『恋に落ちて』を放映していましたが、途中でイヤになって消してしまいました。
今回の話題は「うつ病」の性差です。「うつ病」の発症率は女性の方が多いと言われていますが、私はかねがね疑問に思っていました。女性は「更年期障害」という大義名分があるため診療を受ける機会が多く、その結果として軽症の段階で「うつ病」と診断されるのだと考えていました。それについてはホームページの「院長のあいさつ」にも書いています。最近、やっとこの疑問が解決しました。
2月28日、学術講演会~女性のうつを考える~で、北大精神科の新進気鋭の講師、田中輝明先生の「うつ病診療における最近の話題」という講演を聴きました。やはり「うつ病」の有病率は女性の方が多いと述べられていました。講演を聴いているうちに、更年期障害などで診療を受ける女性も考慮して、なおかつ女性に「うつ病」が多いんだということが何となく分かってきました。それでも確認のため、講演後に「日本人の自殺者は男性の方が女性の二倍も多いのに、男性のうつが女性より少ないとはどういうことでしょうか?」と質問しました。田中先生にとって予期していた質問のようで(あるいはさんざん取りざたされて結論が出尽くして常識になっているのかもしれません)、穏やかに答えられました。第一、自殺の原因で「うつ病」の占める割合は40%以下であること。第二、「うつ病」の疫学調査は診療施設の受診を基にしていないこと。第三、女性の「うつ病」は男性と違って重症になるケースが少ないこと。
ここに至り、血の巡りの悪い私もやっと、男と女は別の生き物(生物ではありませんよ)として考えた方が良いと悟りました。
不景気も「うつ病」も英語では Depressionといいます。パニックももともとは恐慌という経済用語です。「現金なもので」と言うように、人の心はフトコロの状態で左右されます。20年近くも前、会社の経営状態が悪くて自殺した仲良しの3人の社長さんのことが報道されました。そのことが「不景気」、「うつ病」、「自殺」、「男性」という組み合わせで私の脳に強力にインプットしたようです。
思い浮かべると、確かに男性の自殺は「うつ病」と関係がないケースがいくらでもあります。たとえば、東京オリンピックのマラソンの銅メダリスト円谷幸吉選手。彼の遺書の格調の高さは今でも語り継がれています。「うつ」になると文章を書く気力も出ません。
〈父上様母上様三日とろろ美味しゅうございました。干し柿もちも美味しゅうございました。敏雄兄姉上様おすし美味しゅうございました。・・・・・。
父上様母上様、幸吉は、もうすっかり疲れ切ってしまって走れません。・・・・・。〉
この遺書は川端康成や三島由紀夫にも絶賛されました。しかし、皮肉なことにこの後、川端も三島も自殺しました。川端はともかく、三島の死は景気の良い割腹自殺で、これもうつ病とは関係なさそうです。
昨今、性差医療という言葉が行き渡っていますが、女性ばかりを診ている私には今一つピンときませんでした。今回、「うつ病」だけとっても、女性と男性ではこんなに違いがあるんだとあらためて認識しました。