院長ブログ カーブ

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第111回 忙酔敬語 水呑まずオジさん

70代なかばの小柄な患者さんがつらそうに質問しました。「内科の先生に水を1リットル以上飲みなさいと言われたんですけど本当に飲まなければいけないんでしょうか」。私は即座に答えました。「無理することはありませんよ。そんなに飲んだら夜、オシッコで眠れないでしょう」。患者さんはホッとしたようでした。
血液がドロドロになるのを予防するため、水分をこまめに摂るように言われていますが、私は常々疑問に思っていました。私は「水呑まずオジさん」だからです。夏は汗をかくので喉が渇き、自然と水分の摂取量は多くなります。それでもドクダミ茶も含めて1リットル飲むか飲まないかです。今時分は、この患者さんのように寒さのためオシッコも近くなるので、食事以外の水分はノンアルコールビールやお茶など600ml前後です。
血液がドロドロになると血栓症が起きて脳卒中になる危険があるので、寝る前に一杯の水を飲むように奨励されています。特にお年寄りは喉が渇いたという自覚症状が乏しいため、内科の先生が言ったように意識してこまめに摂らないとイケナイとされています。しかしながら夜間オシッコで目を覚ますのはツライものです。私はそこまでして長生きしたいとは思いませんね。
私は水を飲み過ぎて「水中毒」になったことがあります。学生のとき、東日本の医学部の柔道の大会に出場しました。場所は東京の体育館で、冷房はそれほど効いていませんでした。私としては好調で、中量級のベストエイトまで勝ち進みました。当然、多量の汗をかき、喉もカラカラで水をドンドン飲みました。しかし、いくら飲んでも喉の渇きは治まらず、試合が終わって東京の伯母さんちへ行く頃にはめまいもしてきました。そこでハタと気づきました。「水ばかりで塩分を摂っていない!」。医学部での成績はパッとしませんでしたが、それでもそこそこに医学的な知識はあったんですね。当時はポカリスエットのようなスポーツドリンクはそれほど普及していませんでした。ふらふらになって伯母さんちにたどり着き、開口一番、「伯母さん、お塩ちょうだい!」。大さじ一杯ほどの食塩をコップの水に溶かして一気に飲みました。普通ならしょっぱくて飲めたのもではありませんが、美味しく飲めました。そして5分もしないうちにスーッと体はラクになりました。医学を学んで良かったとつくづく思ったものでした。韓流のヨン様は、マッチョな体を作るため、水を10リットル以上も飲むそうですが、本当に大丈夫なんでしょうかね。
しかし、血栓症はやはりコワイ病気です。40代の女性が旅行のため生理をずらしたいと受診しました。こうした場合は中容量ピルを処方しますが、ピルは血栓症の発症率をあげます。この女性はエコノミークラス症候群になって救急車で運ばれたことがあったそうです。よくもまあ、こりないもんだと呆れました。さて、私が処方を断ったら別の病院に行ってエコノミークラス症候群のことは内緒で処方を受けることでしょう。そこで思いついたのが桂枝茯苓丸という血液をサラサラにする漢方薬です。ピルとともに桂枝茯苓丸を処方しました。女性は北欧までの長いフライトを無事に乗り越えて日本に戻ってきました。
先ほど、私は無理して水分を摂って長生きするのはイヤだと書きましたが、まだ私を頼りにしてくれる人がいるので無責任なことはできません。そこで最近は寝る前に桂枝茯苓丸を一包飲むことにしています。そのためか、それまで悩まされていた夜間のこむら返りも起こすことが少なくなり快適に過ごしています。