佐野理事長ブログ カーブ

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第627回 忙酔敬語 看護学校の授業

 2つの看護学校で非常勤講師をしています。月曜日の勤務はお休みさせてもらっているので(実のところ午前中は医局で原稿などを書いて自由にすごしています)、月曜日の午後に学校へ行っています。

 1つ目は北海道看護専門学校。大先輩の丸山淳士先生の妹さんが校長先生だったご縁で引き受けました。当の丸山知子先生は定年退職されましたが、私は月曜の午後はヒマだしこれといってやめる理由はないので続けています。内容は婦人科領域の病態です。具体的には子宮内膜症とか子宮筋腫だとか子宮・卵巣のがんなどです。1回2コマ(90分)を3回で行います。毎年、看護師さん用のテキストが送られてきますが、読んでみてもつまらなく、学生も大変だなあと気の毒に思います。

 つまらない教科書どおりに授業をすすめると、学生の7割が昏睡状態になるので、ある時期からビックリ症例を紹介しました。昏睡状態は3割程度までになりました。丸山先生も「先生の体験談でいいんですよ」と言ってくれたので、しばらくこの方針でやっていましたが、しだいにこっちの方が飽きてきたので、最近ではもっと哲学的な話をするようになりました。まあ、ほとんど雑談ですね。ただし、老化のため滑舌が悪いのか、内容が若者にフィットしないのか、また昏睡学生が増えはじめました。

 毎年、11月の初冬に行っていますが、直近で気になったのが、休憩時間にすれ違う若い講師の先生です。年も離れているし、こちからから話しかけることはなかったのですが、最後の授業が終わったとき、「生命倫理を教えている者です」と自己紹介されました。何でも北大文学部の哲学科に所属されているとのこと。もっと早くにお話しがしたかったと悔やまれましたが、次回までこの情熱を温め続け、またお目にかかる機会があれば心身医学の勉強会や東洋医学会などで講演していただこうと思っています。

 2つ目は昨年からの三草会札幌看護専門学校です。当院で当直をしていただいている山本哲三先生が、長年にわたって講義をされていましたが、「もう、僕も80半ばだし、これからは若い佐野先生にお願いするよ」と託されました。こっちも若いとは言えませんがね。

 承諾して間もなく校長の吉田真弓先生が訪れました。授業内容は解剖学が3回、婦人科病態学が3回、母性(産科)病態学が9回と責任重大です。教科書は前述の北海道看護専門学校と同じです。ややゲンナリしてお聞きしました。

 「何を話してもいいですか?」

 そくざに「ハイ、けっこうです」

 3回の解剖学の授業が何の役にたつのでしょうか?ちょうど市橋伯一『増えるものたちの進化生物学』にはまっていたので、70ページの「私たちの中にある2種類の命」を参考にしました。1つ目は、普通の感覚としての命で、「個体」としての命です。もう1つの命とは子孫へ受け継がれていく「生殖細胞」の命です。市橋先生は生殖細胞の方が生物としての本体だと考えています。これは私の見解ですが、「個体」をはぐくむためにアガペーの愛が、「生殖細胞」を発揮させるためにエロスの愛が生じます。

 試験問題に「愛について解剖・生理学的に述べなさい」と出したところ、けっこう目いっぱい書いてくれました。教務から「模範解答をご教示ください」と問い合わせが来ましたが、「そんなものはありません」と返事しました。