佐野理事長ブログ カーブ

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第622回 忙酔敬語 漢方薬の多剤併用

 前回の『即効漢方』を読んだ方は「漢方ってそんなに効くんだ!」と感心されたことでしょう。ただし、あんなに効いたのはマレで、なかなかうまくいかないのが現状です。今回のテーマはその言い訳みたいなものです。1800年前の『傷寒論』や『金匱要略』に掲載されている漢方は、構成生薬が比較的単純で切れ味が冴えています。この切れ味に惚れ込んだ一派は「古方派」と呼ばれています。しかし、単純な構成では限界があり、複雑な処方も必要となり、とうとう明代には『万病回春』というテキストが登場しました。この辺りの治療法をもっぱらとする医師たちは「後世派」と言われています。実を言うと日本では後世方の方が先に取り入れられて、江戸時代になってから「古方派」がさかんになりました。今でも、「あの先生は古方派だ」とか言ってレッテルを貼られることがありますが、実際には中医学も含めて流派をこえた診療が行きわたるようになっています。

 さらに病態が複雑になると、後世方でもダメで、手軽な漢方エキス剤が多剤併用されるということも出てきました。また、患者さんが多施設で治療を受けている場合、知らないうちに他数のエキス剤を同時に服用するようなことも生じています。そのことを危惧された日本臨床漢方医会専務理事の松田弘之先生は以下のような提言をされています。

 〈当院に10年以上通院されている82歳男性で、神経性の胃腸障害と慢性咳嗽で柴胡桂枝湯と麦門冬湯、そして便秘に麻子仁丸を使用し、大変良好な経過の方がいました。令和4年の秋、当院来院直前に左耳の不調で耳鼻咽喉科を受診し、耳管開放症の診断で帰脾湯を処方されたとお話になりました。ご本人は漢方薬を内服中であることは告げませんでした。そこで耳鼻咽喉科の治療を優先して、当院では麻子仁丸しか処方しませんでした。

 その日の晩、遠方に住む患者さんのお嬢さまからお電話がありました。「どうして、父にいつもの漢方薬を処方しなかったのか」というお怒りの電話でした。

 漢方薬は様々な生薬から構成されています。音楽にたとえると、一つ一つの生薬はバイオリン、チェロ、フルート、トランペットなどといった楽器に相当します。それらが合体したオーケストラが漢方薬に相当するのです。複数のオーケストラを合体させるとハチャメチャになる可能性があります(そうとも限らないと思うけど・・・)。

 食事に例えると、とんかつ定食、ハンバーグ定食、から揚げ定食があります。それぞれが漢方薬だとすると3種類あることになります。おいしそうでも一度には食べませんよね?(これも例えが悪かった、ギャル曽根さんなら喜んで食べちゃいますよ)。

 以上、頭に血がのぼったお嬢さまに説明したのですが、明らかに怒りと抗議を含んだ話しぶりは変わりませんでした。やはり理解されていなかったと自分の説明能力のなさを痛感しました。どうしたら電話で簡潔にご理解頂けるのかと考え・・・、とっさに頭に浮かんだのが次のセリフです。

 「仮にビートルズのコンサートにサポートメンバーとして、ローリングストーンズが割り込んできたらどんな演奏になっちゃうと思いますか?」

 しばらく間を置き、急に明るい声に変わり、「どうもすいませんでした」と弾んだ声で逆に謝罪されました。

 その後は現在も患者さんはこれまでと変わりなく来院を続けておられます。〉

 きっとお嬢さまはロックのファンで、最後の例えでやっと腑に落ちたんでしょうね。