佐野理事長ブログ カーブ

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第579回 忙酔敬語 経済学部と法学部

 年末、大柄で聡明そうな高校生が、センター試験と生理がかぶらないようにと、お母さんと一緒に受診しました。ふつうは、ただ生理の周期を確認してホルモン剤を処方するだけですが、どんな進路を目指しているのちょっと興味がわきました。

 「志望はどこなの?」

 「北大の経済学部です」

 ここで私はよけいなことを言いました。

 「法学部ではダメなんですか?」

 高校の同級生だったK君は、一橋大学の経済学部に現役で入学して、三菱銀行のエリート社員となりました。そのとき、つくづく言った言葉。「経済学はお偉方の学問で、俺みたいな平社員には法学の方が現場のノウハウが分かるのでつぶしがきくんだ」

 このことをお嬢さんとお母さんに話しました。本人は別に学問として経済学をこころざしているわけでもなく、お母さんもいいことを聞きました、それじゃ法学部にしましょう、という雰囲気になりました。

 こんな無責任なことでいいのかなあ、と心配になり、ネットで経済学部と法学部の違いについて調べてみましたが、就職に関しての決定的な回答はありませんでした。もちろん司法試験をめざすのなら法学部ですが、企業側としてはどっちでもいいようでした。

 私なりに考えるに、法学部は既存の知識を土台にして勉強するので目標がはっきりしているのに対して、経済学は何が正しいのか正しくないのか分かりません。

 歴史的な経済のトピックをみると、まずは第2次大戦前にアメリカで起きた大恐慌、英語ではパニックといって心理学用語と同じです。続いて今世紀初頭に起きたリーマンショック。日本もあおりを食って不況になりました。当時、文化庁長官に任命された心理学界のカリスマ・河合隼雄先生は笑いながら言いました。

 「不況のことを英語ではデプレッションと言います。これは心理学用語のうつ状態のことも意味しているので、わたしみたいな者が指名されたのだなあ、と理解しております」

 株価は、ちょっとした社会的な事件などで容易に上がったり下がったりします。経済学なんて本当に学問だなんて言えるのだろうか? 心理学みたいなもんだなあ・・・、20年ほど前、友人の和田につぶやいたところ、

 「おい、それって今年のノーベル経済学賞のテーマだぞ!」と教えてくれました。受賞者は、ユダヤ系の心理学者・ダニエル・カーネマン博士です。オレっていいセンスしてるな、と鼻高々でした。

 経済をまわしているのはお金です。しかし土台となっているのは農業や工業といった実直な物作りで、その土台がしっかりしていないと、いくらお金があっても先が知れています。司馬遼太郎さんは、近世のスペインとポルトガルを「泥棒が大金持ちになったような国だ」とこき下ろしていました。その後、歴史の主役は産業革命に成功したイギリスとなり、そのイギリスはインドなどの植民地によりかかっていたため、すべてを兼ねそなえたアメリカに主役の座をあけわたしました。そのアメリカも、お金が一人歩きした結果、リーマンショックにみまわれました。映画『ウォール街』を見れば分かるように、それをコントロールするのには、ルール、すなわち法律が必要です。だから法学部はエライのです。