院長ブログ カーブ

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第562回 忙酔敬語 酸素濃度30%

 赤ちゃんが苦しそうなサインを出したので緊急帝王切開をしました。3900g近くもある赤ちゃんでした。さいわいすぐオギャーと泣いてくれましたが、まだ苦しそうで酸素をかがせるとラクになるようでした。

 そこで酸素濃度30%の保育器に入れることにしました。心配そうにしていたお父さんに説明しました。

 「おめでとうございます。お母さんも赤ちゃんも無事です。赤ちゃんは酸素を足さないとちょっと苦しそうなので保育器に入れます」

 当時、私は生命の歴史について調べていたので、いつもは言わないことまで言ってしまいました。

 「保育器のなかは酸素が30%です。現在の地球はほぼ20%。地球の歴史で酸素が30%だった時代がありました。陸上に大森林が出現してさかんに光合成をしたためそれまで17%だった酸素濃度が30%になりました。当時はまだ陸上には恐竜も哺乳類もいなくて昆虫の世界でした。昆虫は肺呼吸しないのでふつうはそれほど大きくなれませんが、その時代は、はねを広げると70cmにもなるトンボのような昆虫が空中を滑空していました。赤ちゃんはそこで明日までいてもらいます」

 お父さんは目を輝かせました。

 「そんなに良いところに入れてくれるんですか!」

 いい人だな、とこちらも嬉しくなりました。

 このやり取りを吹聴して回ったら、師長Oさんに注意されました。

 「たまたま、お父さんがウケてくれる人だから良かったけど、あまり調子に乗らない方がいいですよ」 

 確かにそのとおり。実は、酸素も濃ければ良いってもんではありません。長期間、必要以上の酸素にさらされていると組織が酸化されて傷みます。実は調子に乗って酸素の害についても話すところでしたが、話が長くなりそうなのでそこでストップしました。2、3日くらい30%の酸素にさらされても赤ちゃんは大丈夫です。赤ちゃんは翌日、無事に保育器から出てお母さんに抱っこされました。 

 生物のなかで酸素の毒性をモロに受けるのは光合成で酸素を産生する植物自体です。その対策としてビタミンCを産生しました。このように書くと植物がいろいろ考えたような印象を受けてしまいますが、たまたまビタミンCを産生した植物が生き残ったと解釈すべきです。ビタミンEも酸化防止作用がありますが主力はビタミンCです。 

 ビタミンCが多く含まれている食品は葉緑素の多い野菜です。酸素を発生した瞬間に解毒する必要があるからです。しかしながら地下にあって光合成とは縁のなさそうなジャガイモもビタミンCが多いのはどういうわけでしょう? 新川市民農園で気づいたことは、作物の中で一番勢いよく生えてくるのはジャガイモでした。芽を出してからビタミンCを産生するよりもあらかじめビタミンCを用意しているので、成長が著しかったのではないかと考えられます。

 赤ちゃんの酸素の問題からいろいろ考えを巡らしているうちにジャガイモにまでたどり着いてしまいました。考えるというのは楽しいことです。