佐野理事長ブログ カーブ

Close

第552回 忙酔敬語 土曜日の診療

 土曜日は2人体制なので、交代で外来診療をしています。ただし、私は学会でもないかぎり自らのぞんで外来に出ています。このご時世、学会は現地ではなくオンラインでやることが多いので、土曜日に受診すればほとんど私と会うことになります。

 晴朗院長はまだ子供たちが小さいので家族サービスをしなければなりません。水柿先生は6匹のネコの世話をしなければなりません。郷久理事長は別格です。それに対して私は家ではそれほど必要とされていません。土曜日の午前中は外来診療で1日を充実させる必要があります。土曜日は仕事の都合で平日には受診できない患者さんが来ます。また、通学している思春期の患者さんにとっても便利です。こうした患者さんたちは平日の患者さんと違った印象を受けます。私は同じことを繰り返してやるのが苦手です。不妊治療クリニックの草分け、神谷レディズクリニックの神谷先生に「毎日毎日同じようなことをして、よく飽きないものですね」と訊ねたことがありました。神谷先生は高校・大学とも私の先輩ですが、ウマが合い、こんなぶしつけな質問ができるのです。

 「お前なあ、ご愁傷さまですと言うより、おめでとうございますと言う方がずっと良いぞ」

 クリニックを開業する前まで神谷先生は斗南病院でがん患者さんの治療に全力を投じていました。健康に赤ランプがつくほど頑張っていました。失礼なことを言って申し訳ありませんでした。

 一般婦人科外来には不妊専門クリニックと違い様々な患者さんが受診します。

 ある日、40代の女性が恐い顔をして訪れました。両耳に耳栓をしています。聴覚過敏症という原因不明の病気で、更年期にも関係があるのではないかと思い込んで受診したのです。あとで「聴覚過敏」を検索してみると治療が困難でカウンセリングを必要とすることもあると出てきました。このときはそんなことも知らず、とりあえず不機嫌を改善する抑肝散と、不安・抑うつの薬であるSSRIを処方しました。SSRIは「まっ、いいか」といった具合に物事を気にしなくなる作用があります。1週間後、患者さんは目つきが穏やかになり、別人かと見まごうばかりになっていました。何でも2日くらいで嫌な音はなくなり耳栓もいらなくなったとのことでした。念のため1か月分追加処方しました

 これは平日の産科外来のことですが、20代に入ったばかりの妊娠10か月のヤンママに相談されました。もともと間質性膀胱炎を繰り返して泌尿器科で診てもらっていましたが、妊娠10か月では鎮痛剤は処方できないと言われました。確かにこの時期になると鎮痛剤の多くは赤ちゃんに影響を与える可能性が出てくるので、『今日の治療薬』には妊娠末期禁と書かれています。ここで威力を発揮するのが漢方薬です。ところがヤンママは「粉薬はダメです」とキッパリ言いました。昔なら「あなたの病気はたかがそんなものなんですか?」とイヤミを言うところですが、最近、私も大人になったので錠剤のエキス剤が記載されている表をながめました。ここで目にとまったのが柴胡桂枝湯。風邪や胃腸の薬として幅広く使われています。膀胱炎の適応はありませんが、基本的に炎症をおさえる薬です。これだ!と思って使ってみたら2日間飲んだらバッチリだったと良いお顔でした。

 こうした経験は患者さんの了承を得た上で学会発表することにしています。一つの経験が多くの患者さんを救うきっかけになるからです。こんな具合に土曜日も楽しんでいます。