佐野理事長ブログ カーブ

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第551回 忙酔敬語 英語でオンデマンド

 昨今、コロナのせいでオンラインの学会が行われています。そのなかでオンラインでの講演が録画され、一定期間いつでもパソコンを開いて聴講できるシステムをオンデマンドと呼んでいます。要するに一定期間、恥を世間にさらすわけです。

 今年の春、函館の槇本深先生から電話がかかってきました。

 「今年の8月、オンラインで漢方の国際学会があるんだけど先生も参加してくれない?オンデマンドだからその場にいなくてもいいんだよ。ただ一緒に論文も書いてそれまでに提出することになっているけど」

 槇本先生は私の先輩で、漢方や鍼治療へのきっかけを作ってくださいました。ちょうど木防已湯という心不全に使用される方剤を、浮腫や呼吸苦のある妊婦さんや喘息持ちの月経前症候群の患者さんに利用して手応えを感じていたので、ただちに承諾しました。私の辞書に「No」という言葉はありません。

 まず、英語で抄録を書かなければなりません。木防已湯なら mokubouitou となりますが、これは日本語読みです。韓国語は日本と発音が似ています。昔、BSで『宮廷女官チャングムの誓い』を見ていたら、「当帰芍薬散を処方しろ」という場面で「トウキシャクヤクサン○○ニダ」と言っていたので、へえ、日本と同じじゃん、と感心したことがありました。さらに韓国で新型コロナが急増したとき、韓国の首相が「このままだと1日に20万人発症する危険がある」と懸念を表していましたが、確か「ニジュウマン」と聞こえました。中国読みはなかり違います。以前、産婦人科漢方研究会に投稿したおり、英文抄録を読む人は圧倒的に中国人だろうと考え、『金匱要略』を kinkiyoryaku と書かずに jinguiyaolue と格好つけて中国読みで書いたところ、みごとに採用されました。今回は、漢方を勉強する人は、世界でも方剤名は漢字の方が mokubouitou より多数派だろうと考え、「木防已湯」で提出したら、槇本先生から本部は国粋主義(笑)なので「 mokuboito 」で統一して欲しいと連絡が来ました。日本人にしか分からない言葉を使って何が国際学会だと思いましたが、お世話になった先輩のお言葉なので素直に従いました。

 咳や呼吸苦を訴える16人の浮腫のある妊婦さんと喘息持ちの月経前症候群の患者さん1人を対象に投与した結果を発表することにしました。木防已湯で4人の妊婦さんが呼吸器障害も浮腫も消えました。8人の妊婦さんは浮腫は変わりませんが呼吸苦はなくなりました。4例は効果なし。木防已湯は心不全の薬と認識されているので産婦人科関係ではほとんど使われていません。また、木防已湯には危険な生薬は入っていないので気軽に使えます。私は月経前症候群の背景として女性ホルモンによる水滞があると考えています。そこへ生理前になると喘息がひどくなるという患者さんが受診しました。辛くなったら飲んでね、と木防已湯を7日間処方したところ、今までこんなに効いた薬はない、と大変喜ばれ、もっと沢山処方してと言われました。そんな経験をスライド31枚にまとめて、15分以内で録音しました。自分では英語のリズムに乗っていい感じで講演したつもりでしたが、いかにも日本人らしい発音のスピーチとなりました。出だしは、 Everyone, I will talk about the efficanncy of mokuboito で良いか?とカリフォルニア大学に2年間留学した晴朗院長に確認したところ、ニヤリと笑ってOKと言ってくれました。 自分ではオンデマンドは聞かないつもりです。だって恥ずかしいんだもん。皆さんも聴いちゃダメよ。