佐野理事長ブログ カーブ

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第550回 忙酔敬語 動物が先か、植物が先か?

 昔、何かで読んだ記事です。

 「ネコヤナギとかイヌノフグリとか動物をもとに命名した植物が多いが、動物は植物が現れてから出現したのに後先(アトサキ)が逆ではないか?」

 その他にカラスウリ、キンギョソウ、ハクチョウランなど数多くあります。反対に植物の名前を冠した動物は聞いたこともありません。

 中高生時代、生物で食物連鎖について、まず植物を草食動物が食べ、それを肉食動物が食べると習いました。食物連鎖が長い例として、植物プランクトン→動物プランクトン→小魚→中型の魚→大型の魚→イルカ(+凶暴なサメ)。ここでふつうはストップですが、日本の一部の地方ではイルカを食べる習慣があるので、6段階まで進みます。

 こうなると植物が動物よりも早く存在しているというのが生態系の条件になります。そのため地球上に早く登場したのは植物だと考えるのは当然です。

 しかし、現在の地球上でも例外があります。小笠原諸島の西之島。この火山島は有史以来、何度も大噴火を繰り返していて、植物が生えていたこともありましたが、大噴火のたびにすべてが焼き尽くされて生態系はリセットしてきました。噴火が収まるとまず集まって来るのは海鳥です。まだ煙が吹き出ているのにもかかわらず、浪の影響のない場所を選んで卵を産みヒナを育てます。当然、生き物ですから鳥の死骸も出てきます。その死骸をどこから来たのかカニが食べて分解して土に戻します。その土に海鳥に付着して運ばれた種が着地して発芽し植物相が形成され、アレヨアレヨという間に植物を底辺とした生態系が築かれます。同じく小笠原諸島の元火山島の南硫黄島はまさにそんな島です。動物たちが植物を誘致したのです。南硫黄島までになるとカニ以外にも死骸を分解するハエがワンサカいて、調査隊の鳥類学者・川上和人さんは「息を吸うたびにハエが肺に入り込み、100匹吸うと99匹しか出てこないので1匹は体に残ることになる。ハエのもとをたどれば鳥や魚で、鳥や魚を食べたことにしている」と言っていました。

 しかし、よく考えると川上さんの言うように鳥は魚を食べ、魚は動物プランクトンを食べ、動物プランクトンは植物プランクトンを食べます。そーれ、やっぱり植物が先ではないか! でもちょっと待った。ここで地球の歴史をたどってみます。

 40億年前に生命が誕生し、27億年前から光合成をする単細胞生物も現れました。それらの生物は光合成をするからと言って植物とは言えません。その後、二酸化酸素の大気に徐々に酸素が放出され、20億年前には多細胞生物が出現しました。海中に十分酸素が充満した6億年前のカンブリア紀、たった6000万年の間に現在の動物の先祖となる「門」が一気に出そろいました。三葉虫などの節足動物、サカナの先祖となる脊索動物、軟体動物等々。ただしそれらの動物はすべて海中で生活していました。緑の植物も陸上には存在せず、宇宙から地球を見れば赤茶けた大地が広がるばかりでした。デボン紀になると緑の植物が上陸して大地は緑となり、石炭紀になるとシダの大木による大森林が出現して光合成のスピードが増し、大気の酸素濃度は17%から30%超えとなり、その結果、はねを広げると70cmにもなるトンボに似た巨大昆虫が飛び交うようになりました。ここまで来て初めて陸上の生態系の基盤は植物だと言えるようになったのです。ただし、花の咲く被子植物が登場するのは恐竜全盛の白亜紀まで待たなければなりませんでした。