院長ブログ カーブ

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第526回 忙酔敬語 戻ってきた子供たち

 「やあ、お帰りなさい。久しぶりだね」

 緊張した面持ちで診察室に入ってきた女子高校生は「えっ?」という反応を示しました。カルテの保存義務は5年ですが、当院は大きな倉庫に開院以来のすべてを保管しています。

 「このカルテには○○さんが生まれたときの記録が載っているよ。生まれたときは2997g、1ヵ月健診では4013gだって。それも母乳だけ。お母さんも大変だったね。一緒に来てるの?じゃあ、お母さんにも入ってもらおうか」

 「その節はお世話になりました。先生もお変わりなく・・・」

 私は自分の頭をなでながら言いました。

 「何言ってるんですか、こんなに真っ白でもうジジイです。しかし、まあ、素敵なお嬢さんになりましたね」

 こんなやり取りを聞いているうちに本人の緊張は取れてきました。

 「生理痛で学校にも行けなかったんだ・・・。生理前の調子はどうですか?」

 「イライラして手がつけられなくなることもあるんですよ」

 母親が困った顔をしました。本人は下を向いたまま。顔色はパッとしません。

 「じゃあ、月の半分近くは痛い人生を送っていることになるんですね。女子に生まれて損したと思っていないかい?」

 女子高生はちょっと笑いながら首を横に振りました。

 「それは良かった、じゃあ何とかするか・・・」

 現在、生理の3日目で痛みのピークは過ぎているとのこと。

 「ピルがおすすめですね。生理が始まってからが服薬開始だから調度良いときに来ましたね。今日から飲めるよ。このピルは生理痛に効くということで保険が使えるし、生理前のイライラにも効くしベストチョイスだ」

 お母さんが心配そうに訊ねました。

 「こんな若いのに大丈夫ですか?」

 「若いからこそ大丈夫なんですよ、もしお母さんにだったら年も年だし、ちょっと引きますね。東大の大須賀教授が言ってました。ピルを飲むと仕事のミスが減るので利益があがるから治療費を払っても結局黒字になる。ということは学生だったら成績が上がります」

 「じゃあ、お願いします!」

 現金なもので本人の了承もなく、即、お母さんのOKが得られました。 

 こんな患者さんは日常茶飯事で、当院で生まれた赤ちゃんが当院で2度目のお産をすることもマレではなくなりました。なかにはちょっと中休みと、避妊の相談を受けることもあります。このくらい年齢になると「戻ってきた子供たち」の範疇外になります。

 「戻ってきた子供たち」のなかには看護の道に進む子もいます。私は日本医療大学と北海道看護専門学校で非常勤講師をしていますが、試験の答案用紙に「わたし、朋佑会で生まれました」と書いた学生がいました。同じ道を進んでくれて嬉しく思いました。もちろん満点をつけました。学生のなかにはさらに助産科へ進みたいと言っている子もいます。私は天使大學と札幌市立大学の助産科でも非常勤講師を務めているので、「待っているからね」と声をかけています。