佐野理事長ブログ カーブ

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第520回 忙酔敬語 北海道性科学コンソーシアム

 コンソーシアム? 研究会とか勉強会と受けとめてもよいでしょう。ちょっと気取っておしゃれに表現しただけです。と言っておきながら実はかく申す私も世話人の1人です。世話人代表は斗南病院の池田詩子先生で、私の友人の遠藤俊明先生がサポート役です。遠藤先生は札幌医大を退職するにあたって、「今後はマイノリティーのための医療をする」と宣言しました。そんな先生が出会ったのが池田先生でした。「今まで出会ったなかでも傑物の医師だ。漢方で相談したいそうなのでよろしく頼むね」

 池田先生から紹介されたのは持続性性喚起症候群の患者さんでした。年齢は50歳代ですっかり疲れ切った様子でした。クリトリスが充血して痛くて痛くて身の置き場がないとのこと。レアな病気で聞いたこともありませんでした。

 オムニバス形式的に心の疾患をコミカルに描いた映画『イン・ザ・プール』で、オダギリジョーさんが主演した「勃ちっ放し」。独身の男性が淫夢を見ているときに広辞苑が棚から落ちてきて股間を直撃。その後、あそこは勃ちっ放しとなり、日常生活もままならなくなります。オダギリさんはまさに適役で、そのつらさを爽やかに演じていました。病名は持続性勃起症で原因ははっきりしませんが、オダギリさんの場合は精神的な負担が解消されることでメデタシメデタシとなりました。

 持続性性喚起症候群はその女性版です。なんせ私にとっても初めての症例なので、カウンセリングは池田先生にお任せして漢方薬だけ処方しました。イライラと炎症を鎮める大柴胡湯と、これもイライラとさらに下半身の炎症を鎮める竜胆瀉肝湯の2剤を処方しました。これらはいくらか効果があったそうで、池田先生は私も共同演者にして学会発表をしました。

 性的な悩みを持つ患者さんは多くいるはずですが、表だって診療する医師は多くはありません。まさにマイノリティーです。北海道性科学コンソーシアムに参加している医療関係者も産婦人科医、泌尿器科医、看護師などで10人をやっと越える程度です。

 昨年の秋、オンラインで第1回北海道性科学コンソーシアム学術講演会が開催されました。司会進行は遠藤先生。あまりにも張り切りすぎて池田先生の「不妊治療現場での性機能障害」の前に池田先生についての紹介に時間を使いすぎスタートが午後8時前。早寝早起きの私にとってはそろそろおねむの時間でした。池田先生のご講演はさすが現役だけあって身につまされる内容でした。特別講演の大川玲子先生(前日本性科学学会会長)には、昔、心身医学会や女性心身医学会で何回もお目にかかっているので、何をお話になるかは見当がついていました。途中、大川先生が「あとどのくらい時間がありますか?」と座長に確認したところ、上機嫌の遠藤先生は「どうぞ、いくらでも」と返事をしたので、とうとう私は途中退場しました。

 当院は不妊症専門施設ではないので、不妊症の患者さんにしてあげられることには限界があります。しかし、はじめに「週に何回なかよくしていますか?」というルーチンの質問に対して、「えっ、週にですか? 1か月に2、3回、排卵チャック検査で確認してやっています」という返事が多いのには草食系のカップルが増えているんだなあ、と実感しています。性医学コンソーシアムで取り上げる問題は、このようにけっしてマイノリティーではなく、少子化にも通じる大問題なのであります。