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第470回 忙酔敬語 ぴよぴーよ速報

 ネット検索をしていたら、画面の片隅に「ぴよぴーよ速報小学生でもわかるヤバイ歴史・長平の戦い」と出ていたので、開いてみるとこれが実に面白かった。秦の始皇帝が現れる前の秦と趙の戦いで、小学生が学ぶにはちょっとコアなテーマでした。

 「ぴよぴーよ速報」はYou Tube のチャンネルで、小学生(4年生以上でしょうね)を対象に歴史や哲学などを1テーマ10分前後で解説しています。

 秦の将軍は猛将白起、かたや趙の将軍は経験のとぼしい趙括。秦はあらかじめスパイを趙に送り込んで「秦は有能な趙括が将軍になるのを恐れている」というデマを流しました。趙王はこれを信じ込んで老練な将軍たちを差し置いて趙括を将軍にしました。はたして趙軍はボコボコにされて40万人の兵が捕虜になりました。戦場である長平は秦の中心部からはかなり離れていて捕虜を連れ帰るにも食料が足りません。また、解放して趙に帰せばその後また攻めてくる可能性があります。そこで白起は40万人の捕虜を生き埋めにしてしまいました。あまりなことに白起は自国の秦にも恐れられて、その後、自死を命じられますが、とにかく秦が中国を統一する前哨戦みたいな戦いでした。

 「長平の戦い」は小学生どころか大人でも中国の歴史によほど関心がなければ知らないでしょう。私は宮城谷昌光さんの『青雲はるかに』を読んで知っていました。そして「いくら何でも40万の生き埋めなんてありえんだろう」と中国おとくいの盛りすぎだと思っていたら、殺された子孫たちが白いうどんか饅頭を白起に見立てて食べて恨みを忘れないようにしている、という番組がNHKで放映されているのを見ました。少しは盛ってるかも知れませんが大量虐殺は本当にあったようです。

 ぴよぴーよ速報の三国志も良く出来ていました。とかく悪役にされがちな曹操を高く評価して、農業の生産性を高めて国力を充実させたり、兵法書『孫子』を現代でも読めるように編纂したとかベタ褒めでした。そして袁紹との天下分け目の「官渡の戦い」で大勝利。それ以後の戦いは消化試合みたいなものだったとウマイ具合に表現していました。

 ここで気になったのが曹操や諸葛孔明をいわゆるチートだったと紹介したことでした。チートをいろいろ調べたら「ずるいと感じるほど強い者」が一番あてはまるようでした。今どきの子供はこんな言葉を使っているのか、とオジさんは時代から取り残されている感を禁じ得ませんでした。こんな具合に「ぴよぴーよ速報」はかなりユルイ言葉で解説しているので、一見難しい哲学も何となく納得させられてしまいます。

 たとえばデカルト。デカルトはあらゆる存在は確かなのか? と疑います。ぴよぴーよでは胡散臭いことをガバガバと表現しています。それに対して確からしいことはガチっぽいと言っています。デカルトは数学はガチっぽいので数学的な思考で物事を考えました。数学では疑いようのない前提を「公理」と言いますが、小学生は「公理」という言葉は習っていないので「ウンコは臭い」から考えを進めます。臭いウンコを家に置いておけば家は臭くなります。そうすると人が寄りつかなくなる、すると防犯にもなる、とコナンくんみたいに推理を推し進めます。ところが「臭くないウンコもある」と知ったとたん、それまでの仮説は消し飛んでしまいます。そこでさらにあらゆる存在を疑い、「結局、疑っている自分の意識があるのは確かだ」ということになりました。大人はこの考え方を「演繹法」と言いますが、相手は小学生なのでこうした専門用語はめったに登場しません。