佐野理事長ブログ カーブ

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第416回 忙酔敬語 明け烏

 12月のある日、当院としては赤ちゃんの誕生ラッシュでした。さいわい、すべて正常分娩でしたが、1日に7人はさすがにスタッフともどもこたえました。とくに夜勤の2人は未明から朝方まで4例のお産を取り上げたので大変でした。本当にお疲れ様でした。分娩方式はフリースタイルなので分娩台を使うことなくどこでも産めます。分娩室に空きのないときは病室のベッドを利用して2例のお産をしました。

 当日の当直医は私。夜勤のスタッフに「予定者いる?」と聞いたところ「5人です」という返事。今夜は眠れないな、と覚悟しました。いつもは10時前に就寝ですが、その日は頑張って起きていました。ところが11時を過ぎてもコールは来ません。ソファーからベッドに移ってウツラウツラしました。

 はじめのお産は0時47分で病室のベッドでした。陣痛室には次に産まれそうな初産婦さんが控えていたからです。2人目の経産婦さんで赤ちゃんは前回のお産よりも2回りほど大きく大変だったとのことですが、傷もほとんどなくはた目からは安産でした。

 その陣痛室からは日中に入院した初産婦さんのいきむ声が聞こえていました。1時35分、無事出産。傷は小さく、少し縫っただけでした。

 「これであと3人だな」と聞くと「あれから2人入院したので5人です」

 聞かなきゃ良かった・・・。

 日中は産科の外来と病室担当。とにかく少しでも体力の温存をはかるべくベッドにもぐり込みました。眠りは浅くお産関係の夢を見ました。カアカアという烏の鳴き声で目を覚ましました。烏は鶏よりも早起きで「明け烏」と言われています。もう朝かとまくらもとの受話器の子機を見ると2時28分、明けどころか真夜中ではないか!さらに3時28分、またもやカアカア。当直室の窓のすぐ外に梢があってそこで騒いでいるようでした。こんな真っ暗なのに見えるのかな、鳥目のはずだ、イヤ、フクロウは見えるぞ、烏も見えるのかな?(あとで調べたら鳥目は鶏だけでほとんどの鳥は夜目がきくそうです)

 「先生、お産が2つ重なりそうなので詰め所に待機していてください」

 4時24分、経産婦さんがベッドでスムーズに出産。胎盤の始末は私がすることにして担当した助産師は他のお産を援護すべく分娩室へ直行。4時32分、分娩室で経産婦さんがお産。さまに同時多発分娩でした。傷はチョコッと縫っただけ。

 それからまたお産関係の夢を見ました。夢には当院のスタッフも登場し、夢だか現実だか分からない状態でした。気がつくと明るくなっていたので6時半に起床。睡眠時間は2,3時間、まったく迷惑な烏でした。

 残った2人のうち1人は陣痛が弱くなり帰宅しました。残った1人はやけにお腹が大きく経産婦さんではありましたが、ちゃんと産めるんだろうか、と明けのスタッフは心配しながら帰りました。私の仕事は続きます。日勤のスタッフと作戦をねりました。産科医の判断は単純です。赤ちゃんを下から出すか、あるいは帝王切開をするか、の2者選択です。その間、いったん帰した経産婦さんが再入院して午前9時54分に分娩。大きい赤ちゃんは昼過ぎから陣痛促進剤を使ったら14時43分に無事に産まれました。  

 さらに産科外来で陣痛発来のために入院した経産婦さんが夜の11時20分に出産しました。私は自宅でグッスリおねんね。立ち会ったのは会陰縫合の名人、野田先生でした。