佐野理事長ブログ カーブ

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第398回 忙酔敬語 マンパワーについて

 産後にうつ状態になったヤンママにつきそって優しそうなご主人が受診されました。ヤンママは2ヵ月の赤ちゃんを抱っこ。旦那は2歳のお姉ちゃんを抱っこしていました。旦那いわく自分は「産後うつ」については分からないので、どうサポートすれば良いのかアドバイスが欲しいとのこと。自宅では2人だけでオチビちゃんたちの世話をしなければなりません。しかしお話しを伺うと、お嫁さんの地方の実家には元気なお母さんとさらにはもっと元気なお婆ちゃんなど親戚多数のようです。頼もしいサポートが存在していました。

 「マンパワー不足ですね。こんな小さい子を2人だけで育てるなんて昔は考えられなかったんですよ。実家にお帰りなさい」

 ここでマンパワーとは何かとふと考えました。ふつう、人的な数を意味します。未熟児が生まれた場合、「四六時中観察するには当院ではマンパワーが足りないからNICUのある大きな病院に紹介しましょう」。精神的に追い込まれて多量服薬してしまった患者さんに「○○さんが急に困ったとき、お産と重なっていたら対処できないので、いつでも対応できる病院に紹介しましょう」。こうなると人的な数以外に質も加味されます。

 この若い夫婦は2人とも善良で申し分のないカップルでしたが、いかんせん、パワーが感じられませんでした。数だけの問題ではなく1人分自体のパワー不足です。夫婦にアドバイスをして診療が終えた後、マンパワーとは1人分のパワー×人数ではないかと思いいたりました。

 1人だけでも大いにパワーを発揮していたアラフォーのお母さんがいました。2年前に4人目の赤ちゃんを当院で産みました。存在感ありありで、人のアドバイスは必要なさそう、目力が尋常ではありませんでした。スタッフの多くはどん引きましたが、私は個性的な人はイヤではありません。興味深く見守っていました。妊娠経過は順調で無事出産。私はただ見守っていただけでした。昨年、5人目の妊娠で受診されたときは目力も穏やかになっていました。きっとこれまで敵の多い人生で、当院が敵ではないと悟ったためかと察しましたが私の思い込みかもしれません。もちろん今回も経過は順調でした。3か月後、私が麻生で地下鉄に乗車したとき、真正面にこのお母さんが5人の子供を引率して乗り込んで来たのに出会いました。お父さんはいなく統率するのはお母さんただ1人。私が目をやるとハタと気づいてニッコリ笑いました。「先生はどちらへ?」と訊くので「ちょっとお散歩・・・」と答えると、年長の子供達が「お散歩、お散歩!」とはやし立てました。このご一行は壮観で、お母さんはこの前産まれたばかりの子を抱っこ、2年前に産まれたおちびさんは乳母車の中で小学校高学年のお兄ちゃんが面倒を見ていました。その他の2人の子供達はお母さんの左右に座りましたが、統制がとれていて「お散歩、お散歩」以上に騒ぐ子はいませんでした。お母さんは余裕でスマホで自撮りなどをしていました。大通駅でご一行様はバイバイと言って降りて行きました。私は東西線に乗り換えましたが、そのお母さんのパワフルぶりに感心しきりでした。とても産後うつなどの入り込む余地はさなそうでした。またマンパワーについて考え込みました。

 個人的なパワーは持って生まれたものでしょう。パワーがあればパワーの弱い人を助ければ良いのです。見渡せば世の中はこんな仕組みで動いていることに気づきました。人間は平等と言いますが、そんな単純なものではないとあらためで気づかされました。