佐野理事長ブログ カーブ

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第371回 忙酔敬語 ウソをつく

 弱い人間はウソをつきます。

 かく申す私も中学生になってから試験の結果を親に聞かれても「まだ渡されていない」とウソをつくようになりました。小学生のころ、テストの成績で悪い結果を知らせると散々に叱られたもんだから変に学習してしまったのです。学校で渡された赤いバッテンのついた答案用紙を引き出しの奥深くにしまい込みました。学期末になると不審に思った母が引き出しの中を調べてバッテン印の答案用紙を発見したため、さらに散々叱られました。一学期で懲りればいいのに気の弱い生徒は二学期も同様な行為をしました。

 母は学校の懇談会でこのことを相談したところ、担任の田中先生は「頭の良い子だからそのくらいのことはしますよ」と平然と答えられたそうです。良い先生でした。

 その頭の良いはずの子は、さらに2年生になっても3年生になっても同じ行為をくり返しました。こうなると今となってはただのバカとしか思えません。しかし、当時の気の弱い生徒はその場しのぎをくり返しました。

 高校生になると試験結果は親元に届けられるので、かくしようがありませんでしたが、高校の勉強は難しく、さらに不幸にも進学校だったので成績の悪さが目立ち、やはり叱られました。しかし、ウソをつく必要がなくなったのでそれだけが救いでした。

 学んだことはウソをついてもいずれはバレルということでした。ウソをかかえているのはしんどいことです。ウソをかくすのに余計なエネルギーをそそぐからです。大企業の幹部達が、ウソがばれて報道陣のフラッシュをあびながら頭を下げる場面を見るにつけ、どうして正直にやっていけないんだろう、と疑問が生じます。そんな弱い立場ではないだろうにと。利益のために行った小さなデーターの改ざんが、大きな損失につながるのは分かっているはずです。組織として病んでいるのではないかと医療者として思います。

 医療にたずさわっていると、患者さんとの信頼関係が一番大事だと身にしみます。ミスは必ず起きます。起きた後の処理をいかにするか? 当院では院長の私が患者さんに説明して謝罪することになっています。えっ、オレ関係ないよ、なんて態度を示したら、それこそ組織として病んできます。病気を治す立場の施設が病んでしまっては話になりません。

 1997年に放映された三谷幸喜脚本・田村正和主演『総理と呼ばないで』は史上最低と想定された総理大臣の物語です。田村正和さん率いる派閥は、大きな派閥の総理候補達が疑獄事件でバッタバッタと失脚したためにクリーンというだけで出番が回ってきました。野党も最初から相手にしていなかったため本人もビックリの総理就任となりました。

 新総理は性格も能力もダメ。おまけに鈴木保奈美さん演ずるファーストレディーとの関係性も悪く冷え冷えとした家庭生活を送っています。ドラマでは、毎回、不祥事を起こします。しかし、ウソはつきませんでした。その度に報道陣に言った言葉が

 「ごめんなさい!」

 けっしてウソはつかず実に爽やかでした。現実の政治家からそんな言葉は聞いたことはありません。三谷さんはこれが書きたかったのではないかと思いました。

 他の俳優さんでは惨めで後味が悪くなりますが、田村正和さんには花がありました。そう言えば米国第40代大統領ロナルド・レーガン氏も元俳優で演説が上手。主力空母に命名されるほどの評価を得ました。これ、関係ないですね‥‥‥。