院長ブログ カーブ

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第340回 忙酔敬語 俺はピルは嫌いだ

「I don’t like pills」
やさぐれたオッサンはつぶやきました。テレビで何気なくチャンネルを回しているときに、あるBSのB級映画を放映していたときのことでした。
字幕には「俺は薬は嫌いだ」と書かれていました。
どうも病気持ちらしいオッサンに友人が治療を受けろとすすめたようでした。
ピルは日本では避妊用の薬として認識されていますが、本来は錠剤一般のことを言います。錠剤のことは英語ではタブレットとも言われています。違いはピルは丸薬でタブレットは扁平な錠剤だそうですが、映画の様子を見ると別にどちらでもいいみたい。
自分の健康なんてどうでもいい、やぶれかぶれのオッサンにとって、ピルでもタブレットでもたいした違いはなく、言いやすいピルを薬の象徴として選択したようです。
オッサンがピルだなんて、ツボにはまってクスリと笑えました。しかし、映画そのものは暗い雰囲気がただよっていてテンションが落ちそうなのでチャンネルは変えました。
こう書いていると、いかにも英語がとくいみたいに受け止められそうですが、まったく逆。そもそも小学校に上がる前に挫折がありました。英語を覚えようと思って母親に「英語で『あ』のことを何て言うの?」と訊ねたことがありました。
母は質問の意味が分からずほとんど無視。私としては「あ、い、う、え、お」に相当する言葉は「A、B、C、D、E」で、それさえ分かれば英語はできると思い込んでいたのです。要するに「愛」は「AB」、「会う」なら「AC」で表現できると幼い頭で考えたのでした。日本語の文法以外の形態の言語がこの世にあるとは想像だにしませんでした。
中学に入る前、父が、英語の人称の変化を教えてくれました。 I、my、me、You 、your、you、 He、his、him、She、her、her。
このあたりで英語への挑戦はさらに遠くなりました。赤塚不二夫の『おそ松くん』でイヤミが自分のことを「アイ」ではなく「ミー」と言っているのも納得できませんでした。日本語的な感覚なら「アイ」だろうが・・・。中学生になったとき、テレビの人気コメディー番組「ザ・ルーシー・ショー」で自分の氏名を隠したがっている社長が椅子に座っている場面がありました。デスクに乗っていたのは「HIM」という名札。どうも英語では目的格が人称の代表らしいというのが分かりました。
言語が違うということは発想も根本的に違ってきます。日本語は非常に曖昧模糊とした言語で、政治討論などには向いていません。これが関西弁になるとなおさらです。「ほな、まあ、考えときますわ・・・」なんて答弁したら話しになりません。
その点、漢文は簡潔です。ただし漢文は中国では「文言」と言われる文語体で、時代による変化は2000年間ほとんどありません。宋時代あたりから中国人は「白話」と言って口語体でも文章を書くようになり、しゃべり言葉ですから時代によって変化しました。漢文の文法は主語、述語、目的語の順で英語やその他のほとんどのヨーロッパ語と同じです。
幕末や明治の偉人たちが欧米の言語をいち早く理解できたのは、漢文で鍛えられた頭脳を持っていたからです。日常的に漢文を読む人は現在、高校生が習っているような返り点のない白文を上から下までスルスルと黙読していました。英語を読む感覚と同じです。
どっちにしても、俺は英語も漢文も苦手だ。