院長ブログ カーブ

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第293回 忙酔敬語 物忘れ

37歳になる患者さんが心配そうに言いました。
「私、最近、物忘れがひどくなって‥‥‥。スーパーで買い物しなければならないのに家に帰ってから気づくんです。大丈夫なんでしょうか?」
「37歳でしょ。誰でもそうなりますよ。いつも通っている道順なんか忘れたらけっこうヤバイですけど、そんなことないでしょ」
「まさか! そんなことってあるんですか?」
「それなら大丈夫。頭のコンピューター機能がそろそろ満杯状態になっただけで病気ではありません。何でもメモすることです。もう自分の頭を信用しないでください。私なんかとりあえず大事なことはメモに書いて胸のポケットに入れます。長期的なことは手帳に書きます。家に帰るまでに絶対に忘れてはならないこは老眼鏡のケースに入れます。こうすればメガネをかけ替えるときに必ず気づきます」
ようするに40歳近くになったら自分の脳を過信しないことです。メモやパソコンで脳の能力を分散することが大事です。
私が学生のころ、母に買い物を頼んでも必ず忘れるので作戦をたてました。メモを母の財布に入れてみました。それでもメモを見ないこともあるので、とうとうお札をメモでくるみました。さすがにレジで気づくため、それからは買い物忘れはなくなりました。
当時、母は50歳前後でした。けして認知症ではありませんでした。
病気ではないと言っても記憶力あるいは記銘力には個人差はあります。
記憶力とは過去に体験したことを脳に残しておく能力です。
記銘力とは新しく体験したことを脳に覚えさせる能力です。
年をとると昔のことはよく覚えていますが、最近のことは忘れてしまいます。記憶力よりも記銘力が先にダメになるからです。
記銘力を記憶力に転換するには反復練習が必要です。若いときは反復練習もなしに覚えられます。
小学2年生のとき、テレビで1933年制作の『キングコング』を観ました。探検隊が始めに出くわすのはステゴザウルスで、つぎがプテラノドンと美女を助けるために登場したキングコング。キングコングはティラノザウルスの口を裂き殺して、そして巨大蛇も片づけます。
数年前に近所のゲオで奇跡的に1933年制作『キングコング』があったので、そそくさと借りて胸をワクワクさせて観たところ、記憶と寸分たがわないため、あらためて子供の頃の記憶力にビックリしました。
さきほど紹介した『キングコング』に登場する怪獣どもの登場順位は、新しい記憶に基づいているので、書いているうちに信憑性に自信がなくなりました。
くり返しますが記憶力と記銘力には個人差があります。
先日、105歳で亡くなられた日野原重明先生は、99歳のとき札幌の音楽療法学会で講演されました。その際、郷久理事長が丸一日おつきあいしました。郷久先生いわく
「日野原先生にいろいろお話しを伺ったが、一日中、同じ話は一度もしなかったよ」
「先生、その話はさっきも訊いたよ」と言われる身としてただ恥じ入るばかりでした。