佐野理事長ブログ カーブ

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第279回 忙酔敬語 生薬の実力

漢方薬は自然の生薬から作られているから効果はおだやかで安全だと思ってやしませんか?
日常、食卓で利用されている胡椒やトウガラシ(蕃椒)も『東洋医学大事典』(講談社)には生薬として掲載されています。両方ともけしておだやかでないことは皆さんご存じでしょう。トウガラシがふんだんに入った激辛のカレーは、食べて数分もしないうちに大汗をかきます。
現在、日本でエキス剤として使われている漢方薬には胡椒もトウガラシも入っていませんが、山椒は小粒でぴりりと辛い、の山椒は大健中湯の構成生薬です。大健中湯には山椒のほかにショウガを処理した乾姜と朝鮮人参が入っています。これだけだと口の中は火の車になるのでタップリの水アメ(膠飴)で優しくコーティングしてあります。
大健中湯は冷えてお腹が張って便が出ない患者さんに使われます。外科の先生も術後の患者さんにさかんに処方するので、現在、漢方薬エキス剤では売り上げトップです。
優しい水アメ(膠飴)は、虚弱体質の子供によく使われる小健中湯の一番大切な生薬です。不機嫌な子は水アメだけでもご機嫌になります。砂糖や果糖は依存性があるのであまりお近づきにならない方が賢明ですが、水アメなら安全です。
薬と毒は紙一重です。伝説の神農は生薬の効能を試すために百の植物を舐め、その中には毒も含まれていたため、1日に70回ひっくり返ったと言われています。
昔、東洋医学の泊まりがけのシンポジウムで、早朝、薬草園を管理しているおじさんに「これが半夏ですよ。舐めてごらんなさい」と勧められるままに舐めたところ、口が痺れて朝食を摂るときに味噌汁がうまくすすれず閉口しました。
「なに?あんな物を舐めたのか!」と岩崎先生は呆れ、
「まるで神農みたいだね」と下田先生は笑いました。
半夏は吐き気や咳に効果があります。
生薬としての半夏は充分に毒抜きをしていますが、さらに解毒作用のあるショウガ(生姜、乾姜)と組み合わせて漢方薬として使われています。小半夏加茯苓湯がその代表格です。構成は半夏、生姜、茯苓の3つで、妊婦さんのつわりの薬としても使われます。
私の知るかぎり、漢方薬の中で半夏に生姜や乾姜が合わされていないのは抑肝散加陳皮半夏くらいです。でもしっかりと毒抜きをしているので子供の夜泣きにも使えます。
附子(ブシ)は毒の筆頭格のトリカブトを毒抜きして使われます。生薬の中のスーパースターで体を温め代謝を高めます。
附子は息も絶え絶えな患者さんに乾姜、甘草とともに四逆湯として使われていました。今でも煎じで処方している先生もいますが、エキス剤にはないので一般には使われていません。何せ息も絶え絶えですから現代では西洋医学の対象となるので、始めから四逆湯というワケにはいかないのが現状です。
四逆湯にはいろいろバリエーションがあって、乾姜を倍増した通脈四逆湯、人参を加えた四逆加人参湯、ネギ(葱白)を加えた白通湯、さらには白通湯に猪胆汁と人尿(!!)を加えた白通加猪胆汁湯があります。
ここまで来ると怪しげになるので今回はこれで終わりとします。