佐野理事長ブログ カーブ

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第214回 忙酔敬語 大相撲はプロレスに学べ

琴奨菊の優勝は日本人力士10年ぶりと騒がれましたが、そんな了見の狭いことではいかんなあと思いました。誰かが大相撲は格闘技の大リーグと思えば良いと言っていましたが確かにそのとおり。大リーグではイチローをはじめ国籍が多様で、アメリカ人がどうしただなんて話題にもなりません。
琴奨菊の良いところはとにかく前へ前へと出るところ。がぶってがぶってがぶり寄り。来場所当たりはさすがに研究されて誰かにかわされてバッタリなんてあるかもしれませんが、かまわず前に出てもらいたいものです。
昔の怪力の琴櫻を思い出しました。大関時代はあまりパッとせず、三十も過ぎてやっと横綱になりましたが、そのあたりが強かった。解説で活躍中の北の富士さんが現役の横綱だったとき、横綱どうしの対決で一方の腕で廻しを引きつけ、もう一方の腕で喉輪を決めて土俵の真ん中で北の富士をひっくり返しました。その凄さはいまだに忘れられません。
大相撲や野球などのスポーツの話題として様々な新記録が注目されますが、私個人としては試合の名場面の盛り上がりの方がはるかに大切だと思います。イチローは数々の記録を打ち立てましたが、私の印象に残るプレーは適地での外野からホームへのビーム送球。まさかと思われるアウトを取り、場内は驚きのためシーンとなりました。
場内をシーンとさせた試合で思い出したのが往年のプロレス中継です。鉄の爪フリッツ・フォン・エリックがリングの下に倒れ落ちたジャイアント馬場のこめかみを巨大な手でガッチリつかみ、もがき苦しむ馬場をそのままリングの上に引きずり上げた時のこと。140㎏以上もある馬場を片手で引きずり上げたんですよ。まあ、プロレスですから馬場も多少はサービスして引きずり上がるのに協力したかもしれませんが、それにしても大した迫力でした。場内はシーンと静まりました。観客が驚くと歓声を通り越して声も出なくなるんだと初めて知りました。初代若乃花は余裕のある相手と対決したとき、お客さんを喜ばすためにわざと土俵際まで押し込ませて、それから勝負をつけたそうです。
お金を払って見に来てくれたお客さんはもちろん、テレビやラジオ中継でも満足してもらえない相撲が続けば、しだいに人気にかげりが出るはずです。横綱や大関が星取りのために立ち会いに変化するなんて言語道断。場内から、ア~ァ、とため息が出るようでは終わっています。戦前の名横綱双葉山は後の先といって相手の立ち会いは必ず受けたそうです。大相撲は単なるスポーツでなく日本古来の伝統美を表現する場でもあります。
プロレスの勝負は約束ごとと言われていますが、ただそれだけではあれほど体を鍛える必要はありません。一流大学のプロレス同好会の学生が多彩な技を繰り広げていたのを見たことがあります。貧弱な体でバックドロップなどみごとに決めていました。でも当たり前ですが迫力は今一つ。昔、夕張市立病院に出張したとき、全日本プロレスが興行に来ました。花相撲みたいな内容でしたがそれなりに楽しめました。その夜、タイガーマスクと思われる人物が夜間救急を受診しました。試合中に膀胱を蹴られたため血尿が出たとのこと。当番の看護師さんに聞きました。花試合でもこんなに大変なんだ、見せる試合をするためには体を鍛えなければ危険なんだとあらためて感心しました。
プロレスではお客さんを満足させるために相手の得意技はあえて受けます。大相撲でもこの辺のところを見習うべきだと思います。