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第213回 忙酔敬語 流産の処置

昔は流産と言えばまず出血から始まりましたが、現在は超音波診断によりほとんどの流産は出血する前に断が下されるようになりました。いわゆる稽留流産です。たとえ出血していても赤ちゃんが育っていれば、ほとんどの場合その後の経過も順調ですが、反対に赤ちゃんが育っていなければアウトです。
流産と診断がついたら日本の場合、患者さんが納得したら流産の手術を受けることになります。どうしても手術がコワイ、あきらめきれないという場合は待ちます。中には1ヵ月以上も待って、子宮から出てきた内容物を庭に埋めたという患者さんもいました。
大抵はこのように待っていても良いのですが、胞状奇胎といって後に絨毛癌になる可能性のある所見があれば積極的に手術をすすめます。
胞状奇胎の可能性がなければいくら待っても良いので、2008年の日本産婦人科学会で中村久基先生は「稽留流産の保存的治療」という演題で発表しました。それによると91例での排出までの平均日数は13.7日、最大67日でした。
漢方薬の中には妊婦には禁忌という処方があります。多くの駆瘀血剤が含れます。どうしてダメかというと子宮の内容物を排出する作用があると考えられていたからです。たとえばお腹の中で死んだ赤ちゃんが出てこないとか、産後に胎盤が残ってしまったという症例に桂枝茯苓丸や桃核承気湯を使ったら奏効したため、正常妊娠でも危険視されるようになりました。
そこで駆瘀血剤を使えば流産手術をしなくても早く決着がつくと期待して、2008年から2009年まで36例の稽留流産の患者さんに妊婦禁忌の漢方薬を処方しました。このアイデアを不妊症専門の先生方に話したところ、異口同音に「それは良いことだ」と言ってくれました。不妊症の原因の一つに、たび重なる流産手術が原因で子宮内膜が薄くなるための着床障害があるからです。子宮が受精卵を受け入れなくなるわけで、こうなるといくら不妊症専門の先生でも頭を抱えてしまうそうです。よく、「中絶をくり返すと赤ちゃんが産めなくなる」と言われるのはこういったわけがあるからです。
さて、36例の結果は排出までの平均日数は10.1日、最大52日でした。一見、中村先生のデーターよりも短期間に決着がついていますが、「漢方にしますか、どうしますか?」と患者さんの同意を得る時間を加えると、ほとんど同じです。さらに、駆瘀血剤の流産伝説は間違いだったとも言えます。
その後2年間、同じ時期に流産手術を行った18例の患者さんと比較して、経過を調べてみました。漢方処方例の妊娠が21例(58.7%)、流産手術後の妊娠が12例(67.7%)と漢方の優位性は証明できませんでした。もっとも当院の流産手術が上手いとも言えますが‥‥‥‥。
ロイター産婦人科ニュースでヨーロッパでは稽留流産の処置として治療として手術よりも薬剤による治療を第一選択とすると報道されていました。それを読むと日本で使用できる薬剤は「サイトテックス」という胃薬。尻軽男はさっそく試してみました。漢方薬よりも効果は歴然としていましたが、夜間、突然の出血のためパニック状態で受診するケースが多いため、スタッフには不評でした。また、まもなく製薬会社から「適応外の使用はしないでください」との通知が来て、この方法は封印されることとなりました。