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忙酔敬語/院長ブログ

2018.5.28
第331回 忙酔敬語 心の問題はソフトかハードか?

北大精神科名誉教授山下格先生の生涯の研究テーマの一つは統合失調症でした。北大を退官されるとき、

「わたしは統合失調症は脳のハードの病気だと思います」と言われました。

要するにいくら精神分析などで治療しても無駄ということでもありました。

最近、私はさらにすべての発達障害やひいては性格も遺伝的なハードの要素が大きくかかわっているのではないかと考えるようになりました。

「三つ子の魂百まで」と言われていますが、妊婦健診をしていると、お腹の赤ちゃんがやたらに動いて触診している手をけとばすことがあります。

「よく動く子ですねえ、上の子はどうでしたか?」

「もっと静かでした」

「きっと今でもおとなしいのではありませんか?」

「はい、手がかかりません」

「そうですか‥‥。この子は生まれてからも動きます、覚悟しておいた方がいいですよ」

よけいな事を言ってしまいましたが今までの経験にもとづいた正直な感想です。

性格のほとんどは三つ子どころかお腹のなか、あるいは受精して染色体が確立した段階である程度決まっていると私は考えています。生まれてからいかに情操教育をしても好き嫌いは生まれつきなので子どもが嫌がることはやめておいた方がいいと思います。

夏目漱石の短編『趣味の遺伝』は、男女関係の好みはご先祖さんとソックリだったというお話しです。作品自体は暗くてつまらないものですが、「遺伝」という当時あまり使われなかった(と思われる)理系の言葉が気になりました。きっと漱石門下の物理学者である寺田寅彦の影響があったのでしょう。

二人の娘を持つ友人の話によると、長女は顔の作りは母親ゆずりだが趣味は親父(友人)似で女の子なのに爬虫類や両生類が大好きでヘビを飼って喜んでいるそうです。一方、次女の容貌は親父似、趣味は食いしん坊の母親そっくりで料理やスウィーツに目がないとか。これって遺伝としか説明がつきませんね。

最近、心の問題をかかえている患者さんへの薬物療法は根本的な治療ではないと実感するようになりました。また、本人の考え方を切りかえて、実生活になじませようとする認知行動療法にも限界があるのではないかと疑っています。無理矢理にソフトをいじくろうにも脳(ハード)のほとんどはすでに出来上がっているからです。ただし薬物療法や心理療法で何とかしのいでいるうちに脳はさらに成長する可能性はあります。精神科のカリスマ神田橋條治先生も「発達障害は発達する」と言っています。

根本的な治療はカウンセリングを通してその人に合った生活環境を模索することです。たとえて言えば、間違ってまぎれ込んできた小動物にいくら水や餌をあたえてもダメで、本来の環境かあるいは適切な飼育環境にゆだねなければならないということです。

これは、心の病気にとどまらず一般の人々にもいえることです。人生の目的は、何かを達成するというよりも自分の居場所を見つけることではないでしょうか。これは五味太郎さんの言葉です(『大人問題』講談社)。無理な目標をたてて生きるということは実にシンドイ。自分に合った人生を選択することが本当の幸福につながると思います。

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