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忙酔敬語/院長ブログ

2017.10.16
第299回 忙酔敬語 弛緩出血と双手圧迫 

帝王切開が順調に終わりヤレヤレと思っていたときでした。

「300g出血してます」と詰め所から連絡が来ました。

診察してみると、すでに出血は止まっていました。多分、子宮の戻りが一時的に悪くなったための弛緩出血だと思いました。よくあることです。

子宮収縮薬を点滴に入れるように支持を出しました。それから30分後、また300gほどの出血。さらに別の種類の収縮薬を注射しました。

それでもまた出血。今度は蛇の毒から作られた止血薬を注射しました。

それでも30分ごとの出血。一度に多量は出ないため、ショックにはなりませんでしたが、すでに2000ml近く出血していました。輸血のオーダーをしました。

そこで思い出したのが20年以上も前に北見赤十字病院で行った30分近くの双手圧迫。内診しながら子宮をひたすらマッサージするのです。

「あの手があったか」とさっそく開始。ベッドのそばにいるご主人には状況をそのつど説明しました。しかし、ご主人いわく「創からの出血ではないんですよね?」

ギクッとしました。オレ、この22年間、1000例近く帝王切開しているけど一度も失敗したことはないぞ、創からの出血だったら血圧が下がるはずだ、ほら、また子宮が緩んだ、やっぱり弛緩出血で間違いない、と思いなおし、また双手圧迫に努めました。

最近、弛緩出血の治療に子宮腔内バルーンが使用されるようになりました。しかしながら「あれは圧迫止血にはなるが子宮は緩んだままだしなあ‥‥‥」と今一つ納得できないので当院では採用していません。

岡山大学出身の秋山記念病院院長・秋山實男先生によると、昔の産科若手医師の仕事は氷嚢を載せた褥婦の子宮をマッサージすることで、カシャカシャという音が途絶えると「何をさぼっとるのじゃ!」とぶん殴りに行ったということです。

氷嚢は子宮を冷やすために使うのですが、腹壁の皮下脂肪などにより子宮まで冷えるとは考えられられないので、私は行っていません。

かがみ込んでの双手圧迫。けっこう疲れます。汗が出てきました。

「何分たった?」と5分ごとに訊きます。

「25分です」。北見での双手圧迫の時間と同じになりました。

圧迫してからはほとんど血は流れて来ません。ときどき子宮が緩むのを感じ、その時はさらに力を入れてマッサージを続けました。発注した輸血が到着し、無事に輸血が始まるまで前屈みの状態での処置。腰が痛みました。輸血が始まっても念のためさらに5,6分、結局52分圧迫を続けました。全身、汗ビショビショ。下着、パンツ全部履きかえました。 その日は医師会館で会議がありましたが、30分以上遅刻して頭は真っ白、弁当を食べただけでした。会議が終わり詰め所に「どうだ?」と電話したところ、「あれから42g出血しただけで患者さんは元気です」。本当にヤレヤレ‥‥‥。

郷久先生に「周産期懇話会で発表しようかな」と持ちかけたら、

「そんなジイさんの話、誰も聞かないよ」とつれない返事。

でも、後世に(この時点でジジイと言われてもしかたないか)残したい技だなあ‥‥‥。やっぱり発表しよう!と思うのでありました。

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